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第6話
「は……ぁ、んっ……っ」
艶めかしく上気した顔に、歪む柳眉。潤む切れ長の黒い双眸。目を伏せると、長い睫毛が影を落とす。
桜の花びらのような形のいい小さな唇からは、あまい喘ぎ声。
男だとわかっていても、あまりの色香にごくりと生唾を飲み込む。
部屋の中に満ちているアイの放つ、濃厚で甘美な匂いに襲われる。やっと抑制剤が効いてきたと思っていたのに、強く官能が刺激され、ずくんと身体の芯が熱く疼く。
「今日は世話になったな。礼をしよう」
今まで眼中に入っていなかった金剛寺の声が意識の遠くから聞こえる。
「アイ、わかっているな。俺の恩人だ。存分に満足させてやれ。ただし口だけでな」
「は、は……ぃ」
身体の中心の、黒革のベルトで縛められた屹立からぽたぽたと涎を滴らせ、アイは金剛寺の命令にこくりと頷く。
わななく膝を床につけると四つん這いになってタイヤンへとにじり寄る。
射るように見上げる強い眼差しに既視感があった。だがそんなはずはない。アイはれっきとした男で年齢も違う。
一歩、また一歩と歩くたびに、赤い首輪についている鎖がチャラチャラと鳴った。
近づいてくる淫靡な獣を前に呆然とする。
しかしフェロモンを放ってはいるが、アイのこれはまだヒート状態ではない。タイヤンも効果が薄れたとはいえ抑制剤を飲んでいる。
それなのにタイヤンの欲望は芯を持ち、借りたジャージの股間をうっすらと膨らませている。
「あ……っ、ご、しゅじん、さま、を、たすけて、くれて……っ、あ、ありがと……っ」
声が震えているのは、後ろに埋め込まれたローターのせいだろう。黒革の貞操帯で抜け落ちないようガードされている。
アイはタイヤンのジャージのボトムにほっそりとした指先をかけると、ゆっくり引き下ろした。
身体の奥がじんじんと痺れる。頭がぼうっとする。
呆然とアイを見下ろす。
あまい媚薬のような薫りが、いっそう強くなる。
下着とともに下ろされたジャージから現れた、黒々とした茂み、アルファの象徴のような赤黒く猛々しい屹立。
アイは慣れたふうでタイヤンの雄に指を添えると、桜の花びらのような可憐な唇にぱくんと含んだ。
「うっ……」
オメガとは、アルファを狂わす危険な生物。
学校で、あるいはアルファのための研修で、さんざんその言葉を叩き込まれていたが、こうして間近に接してみると実感としてよくわかる。
こんな状態でオメガに抗えるアルファなどいるはずがない。
「んっ……、ふぁ……んぐぅ」
嵩も太さもあるタイヤンのモノを口いっぱいに咥えているせいで紅潮した頬を膨らませたアイは苦しげに眉を歪め、眼を潤ませている。
しかし、その苦悩の表情とは対照的に、熱くねっとりとした小さな舌は器用に動き、熱心にタイヤンの猛々しい雄に絡まり舐めあげる。
「うっ」
あまりの気持ちよさに、思わず声を漏らす。
あまり口淫をされた経験がないタイヤンにもアイの舌技が上手いのはわかる。同じ男だからだろうか。絶妙にタイヤンの性感ポイントを舐めあげ、くちゅりと啜りあげる。
今までもこうして、何人もの男のモノを咥え込んできたのだろう。
こんなかわいい顔をつらそうに歪めて。
かわいそうにという憐れみの情が湧くのに、アルファの本能がオメガを貪るように、思わず形のいい小さな頭を押さえつけ腰を突き上げてしまう。
「んんっ、ぐふぅ……っ」
タイヤンの、アイの口には収まりきらないほどの質量のモノで、無理やり奥深くまで突かれたのだ。
潤んだ眼を閉じ、アイが綺麗な顔を顰めて、苦しそうに噎せ込む。が、それでもタイヤンの昂ぶりを口から離そうとはしなかった。
けなげにも初めて口に含んだタイヤンの劣情を、くちゅくちゅと宥めるように愛撫してくれる。
よほど金剛寺に躾けられているのだろう。
しかし不憫だという気持ちを裏切るように、タイヤンの屹立は荒ぶり、アイの口腔を犯すのだ。
「ふ……、き、もち、いっ?」
すっかり育ちきったタイヤンの雄をしゃぶりながら、アイは尋ねる。可憐な唇は唾液と先端から滲んだ淫水で、ぬらぬらと光っている。
タイヤンの逞しい腕で抱きしめると、折れてしまいそうなほど華奢でか弱そうな肢体は、充分庇護欲をそそられる。
護ってやりたい。助けてやりたい。
そう思うのに、アイからくらくらするような快感を与えられ、この華奢で美しいオメガの少年を押し倒し、思う存分、欲望を身体の一番奥深くまで叩き込みたくて仕方ないのだ。
「あ、ああ……」
凶暴な欲望を抑え込むように頷くと、アイは嬉しそうに口角を上げた。その表情に、まさかこんな行為が嫌ではないのだと、発情期でもないのに、この子はこれを悦んでいるのかという疑問が湧く。
確かにオメガにはそういった、いわゆるセックス依存症患者が多いのも事実だ。だが、それはアルファに性的虐待を受けた結果、そうなるのだとタイヤンは思っている。
アイがこんな気持ちの伴わない行為を、悦んでいるなどと信じたくなかった。
けれど、タイヤンの肉は事実、悦んでいるのだ。
気持ちの伴わない、この行為を。
アイが抑制剤を飲んでいるのは間違いない。タイヤンもラット抑制剤を服用している。車の中ではそれでなんとか凌げた。
しかし初めて経験するオメガの口淫に、今までのセックスで味わったことのない快感がこみあがる。身体中がアイを欲しておさまらない。
口淫だけでは足りない。目の前のオメガが欲しい。
押さえつけてのしかかり、狂おしいほどあまく蠱惑的な匂いを垂れ流す身体の奥深くに気がすむまで己の精を注ぎたい。
このオメガの中を余すところなく自分の精でいっぱいにして孕ませたい。
鉄が磁石に吸い寄せられるように、アイの身体に惹きつけられて、ただただ渇望して止まない。
唇で、口で、舌で、ねっとりと愛撫されているタイヤンの雄が、涎をだらだら垂らしてアイを欲しがっている。
今にも散りそうなほど薄く小さな桜の花びらなのに。壊れそうなほど華奢な身体なのに。ダメだと思うのに、腰を突き上げ可憐な口腔を犯すことを止められない。
アイが欲しい。自分の種を孕ませたい、孕ませたい。
「う、うっ……」
後頭部を押さえつけ、気持ちの望まぬままに精を吐き出す。
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