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プロローグ【北海道の冬】 1

 雪が降ると、世界から音が無くなるらしい。  それは確か【雪があまり音を反射しないから、物音が響かない】とか。そんな理由だったはず。ソースは、いつぞやに読んだラノベ化されたエロゲの主人公。  つまり、理由があって冬は静かだ。ゆえにオレは、深く深く眠れる。  北海道の冬なんて、寒いし雪が降るし路面は凍るし飛行機とかが遅延するしで、全くもっていいイメージは無い。だが、基本的にインドアなオレにとったら関係無い。仕事以外で外に出ないのだから、外の世界がどうなっていようと関係がないからだ。  なんてことを考えつつ、ほどよく微睡む中で『これはもう一回眠れるな』と思った。  そんな時。 「う、っ」  ドサドサ、と。屋根から雪が落ちる音で、眠気より不快感が勝ってしまった。  どうやら、昨日の夜はかなり雪が降ったらしい。『らしい』というのは、人から聞いただけで実際に確認したわけじゃないから。ちなみに、これのソースは同居人だ。  昨晩、このアパートに戻って来てから今の今まで一回も外を見ていないオレは、二度寝を諦める。降り積もった雪がゴロゴロと屋根を滑り落ちていく音に気付いてしまったからだ。 「う……っぜ」  一度目が覚めると、トイレに行きたくなった。チラリと時計に視線を投げると、二度寝するには心許無い時間だ。  しかし、二度寝を諦めるには後ろ髪を引かれまくる。……が、仕方なく毛布を引きはがす。  枕元に視線を落とすと靴下が一足、用意されていた。それをオレは、遠慮なく履かせていただいた。 「ぎえっ。床、冷てーっ」  靴下を履いたとはいえ、フローリングは泣きたくなるほど冷えている。  だが、生理現象には抗えない。ということで、オレはトイレへ直行した。 「……ん?」  寝室からリビングへ出ると、いい匂いが嗅覚を刺激する。オレは堪らず、眉を寄せた。  ……が、今は用意された朝食なんて気にしない。扉を開けて短い通路を渡り、トイレに入ろうとして……。  不意に、窓の外を眺めてみた。  窓から外を見下ろすと、そこには見覚えのある後ろ姿がある。同居人の、オキジョーだ。  オキジョーは真っ赤なママさんダンプを効率よく動かして、除雪しているらしい。いつから始めていたのかは知らないが、辺りの除雪が八割がた終わっている。おそらく、全部一人でやったんだろう。 「朝から、けっぱるなぁ」  ポツリと呟くも、当然この声は誰にも届かない。オレはぼんやりと、除雪作業に勤しむ同居人を眺めた。  するとアパートの住人らしき人物が一人、ゴミ投げに外へ出てきたではないか。除雪作業をしているオキジョーは、律儀に頭を下げている。朝の挨拶でもしているんだろう。  短い談笑を終えたオキジョーがふと、視線を上に向けた。するとオレたちは窓ガラス越しに、目が合う。  鍔と耳あてのついた、もふもふモコモコな帽子。  デザイン性より保温性を重視したような、少し膨らんでいる上下のジャンパー。確か、ウィンド……ブレーカー、とかってやつ。  オキジョーはオレに気付くと、にこやかな笑みを浮かべて手を振ってきた。これまたドシンプルな、黒い厚手の手袋をはめながら。  オキジョーの挨拶に欠伸で答えるも、廊下の寒さで冷えた体がより強く尿意を訴えてきたので、トイレへ退散。きっとオレがトイレから出る頃にはオキジョーも部屋に戻ってくるだろう。  ……なんの面白味もない、二階建ての小さなアパート。  そこでオレ、愛山城(めざんじょう)(いばら)は、オキジョー──もとい、沖縄(おきじょう)和歌知(わかとも)と同居している。

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