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プロローグ : 2
用を足したオレは、のんびりとした動作でトイレから出る。
すると、正面にある玄関の扉が開いた。
「あぁ、メイ。おはようございます」
「……はよ」
「寝癖、ひどいですよ」
軽い挨拶をしながら、オキジョーは防寒性バッチリな帽子を脱ぐ。すると、明るい茶髪が姿を現した。
「髪。後で直してくださいね?」
「なまらメンドくせぇ」
「そう言うと思いました。僕がやりますよ」
機能性と保温性に優れていそうなオシャレ感ゼロのジャンパーを脱ぎながら、オキジョーは笑う。どうやら、下に着ていたのは部屋着だったらしい。寝間着のまま作業をしたって誰にもバレないだろうに。……まぁ、どうでもいいけど。
はめていた手袋も外し、オキジョーは帽子の着脱によって乱れた髪を撫でるようにして直す。……別に、見てるのはオレだけなんだし気にしなくてよくねぇか? などとは思うが、口にするのはメンドウなので閉口。
だが、必要なことは口にする。
「オキジョー、腹減った」
除雪スタイルを完全に脱ぎ捨てたオキジョーに向かってそう言うも、オキジョーは特に嫌そうな顔をしない。
「分かりました。お味噌汁を温め直しますから、少し待っていてください」
「ん」
リビングで感じたいい匂いは、ヤッパリオキジョーが作った朝食だったらしい。除雪作業前に調理だなんて、マジでいつ起きたのか謎だ。……まぁ、それもどうだっていいけど。
オキジョーと並んでリビングへ戻ると、オキジョーはそのまま狭い台所で向かう。そんな様子を横目に、オレは寝室へ向かおうとした。
「メイ。すぐに用意できますから、二度寝はいけません」
のだが、オキジョーに呼び止められてしまう。オレの眉間にはムギュッと、シワが寄せられた。
「五分だけ」
「駄目です。メイの五分は信用できません。ソファに座って待っていてください」
「……っぜ」
オキジョーはオレの母ちゃんかよ。むしろ、母ちゃんだってそんなこと言ってこねぇぞ。既に色々と諦められているからな。
だが、反論するのも抵抗するのも口論するのもメンドウだ。オキジョーの言う通り、ソファで横になる。
「なまら寒ぃべや……」
「心底面倒なときにだけ方言で話す癖を理解してはいますが、毛布は掛けてあげませんよ」
「チッ」
ツンと跳ね除けるようなことを言うくせに、オキジョーはテキパキと朝食の支度を進めていた。
目玉焼きとかウィンナーが載ってる皿をレンジでチンして、その間に白飯を茶碗によそっている。温め直した味噌汁もお椀によそい、二人分の白飯と味噌汁をテーブルに移動。
それが終わると、まるでタイミングを見計らったかのように、レンジが『チン』と音を鳴らした。
「メイ、起きてください」
「あ~……」
「まったく。しょうがないですね」
ソファに寝そべったオレの腕を引き、オキジョーが上体を起こしてくれる。
テーブルに並んだ朝食を眺めると、待ってましたと言わんばかりにオレの腹が鳴った。
「お茶碗は使い終わったらちゃんと、自分でうるかしてくださいよ?」
「お~……」
「絶対ですからね」
用意された朝食に箸を伸ばすと、オキジョーがジッとオレを見る。
「……い、ただきマス」
「はい、どうぞ」
同居人であるオキジョーは、細かいことにウルサイ。……が、世話を焼いてもらっているので、できる範囲で従う。オレだって一応、人として最低限の礼節は弁えているのだ。
……一応、な。
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