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プロローグ : 3

 朝食を終え、歯磨きやら着替えやら色々を終わらせたオレとオキジョーは外に出た。  辺りは美しい銀世界。……なんて言ったら聞こえはいいが、所詮は雪だ。実際は汚い。ガキは雪を食ったり屋根から垂れ下がるつららをしゃぶったりするが、マジで汚いからやめとけ。  などと風情のカケラもないことを考えているオレのそばで風が吹くと、細かく舞う雪が頬に飛んできた。  見ている分にはキレイかもしれないが、正直冷たい。そして、風速によっては痛い。マジで刺すように痛いのだ。一種の攻撃とも思える。  オキジョーが買った乗用車の助手席に乗り、オレはシートにもたれかかった。 「あったけぇ……」 「予めエンジンをかけておいたので、当然ですね」 「もうここに住む」 「それはやめてください」  困ったように笑うオキジョーが、運転席に座ってシートベルトを装着する。チラッと視線を送られたので、オレもシートベルトを装着。  ゆっくりとバックをしながら、オキジョーは左右を確認する。意味はないが、オレもチラチラと視線だけで左右の確認をしてみた。  アパートの敷地から少し出た道路を見やると、圧雪された雪がギラギラと光っている。道民以外の人間からしたらこれもある意味【風情】というものかもしれないが、こちとら恐怖の対象でしかない。 「滑りそ」 「メイは運転しないでくださいね。事故を引き起こしそうですので」 「バカにしてんの?」 「失礼しました。それでは、運転を代わりましょうか?」  ニコリと笑ったオキジョーから視線を外したオレは、道路をもう一度だけ眺めてみる。 「……やめとく」 「英断ですね」  最近は温暖化の影響か知らないが、雪が降るのは遅い。早いときは十月末にドカッと降ったくらいだ。……正直、あのときは死を覚悟した。  それが今では十一月末や十二月頭に突然ドカッと降るもんだから、今年度の雪に慣れてないドライバーは皆、運転が慎重だ。そのおかげで、ゆっくり走っていても嫌がられないのは美点だが。 「道路が凍ってる日は公休にすればいいのにな」 「それは素敵な職場ですね」 「だろ? オキジョー、起業して」 「僕が起業しても、メイを雇うかは別問題でしょう?」  なんて薄情な同居人だ。幼馴染だからって、言っていいことと悪いことがあるだろうに。  ちなみに、幼馴染兼親友兼同居人兼同僚のオキジョーは、会社でかなり優秀だと評価されている。  この通り人当たりもいいし、面倒見もいい。尚且つ物腰柔らかで顔面も整っていて、オマケに家事全般が得意。女性視点だと【最優良物件】とかなんとか。……まぁ、今はオレの世話係みたいなもんだけど。  誰よりもオレを甘やかして世話もしてくれるオキジョーが起業してくれたら、オレとしては天職なんだがなぁ。 「わやだな」 「メイの発想こそ滅茶苦茶ですよ」  軽口を叩きながら見事、スリップすることなく職場の駐車場へ到着。エンジンを切ったオキジョーがシートベルトを外したので、オレもシートベルトを外す。  解放感に脱力していると、隣に座るオキジョーがオレを見てきた。 「まさかとは思いますが、メイ。このまま寝ようとしていませんか?」 「当たり」 「駄目ですよ。職場に着いたのですから、起きてください」  運転席から下りたオキジョーが、そのままオレの座る助手席の扉を開けてくる。するとそのままオレの腕を引き、ムリヤリ立ち上がらせてきたではないか。 「うぇえっ、鬼だべさぁ……」 「なんとでも仰ってください」  オニジョー、失礼。オキジョーはそのまま、オレを助手席から引きずり出した。  さぁ、楽しい楽しいお仕事の時間だ。……なんて、心にもないことを唱えてみないとやる気も出ないが。オレは渋々、車から降りたのであった。 プロローグ【北海道の冬】 了

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