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1話【オキジョーという男】 1

 そんなオレとオニジョー……もとい、オキジョーは勤務している課も同じだ。だから当然、向かう事務所も同じ。  オキジョーに腕を引かれながら、オレは個人用にあてがわれたロッカーへ上着をしまい込む。それからオレたちは、配属されている課がある事務所へと向かう。 「おはようございます」 「……ざぁっす」  爽やかに挨拶をするオキジョーと対照的に、メンドウという感情を全面に出した挨拶をするオレは、自分のデスクへ向かった。……ちなみに圧倒的な余談だが、オキジョーとオレのデスクは正面同士だ。 「あ、沖縄先輩! ……と愛山城さん。おはようございます!」  デスクに向かうと、オレの隣に座る一人の青年が声を掛けてくる。 「森青(もりあお)君、おはようございます」 「今日も子守りお疲れ様ッス!」  オキジョーに挨拶をされて喜んでいるのは、森青(せん)という男だ。年齢は二十歳で、今年の春に入社したばかりの新人。キラキラのフレッシュさと若さが弾ける好青年というやつだ。  センは嬉しそうにオキジョーを見上げていたが、すぐに冷ややかな目でオレを睨み付けた。 「愛山城さん。今日も沖縄先輩に迷惑かけたんスよね? 恥ずかしくないッスか?」 「オイ、セン。オレとオキジョーは同期だぞ」  オキジョーは先輩呼びなのに、なんでオレは違うんだよ。毎度のことだし生きていく上で支障は無いが、それにしたって露骨すぎる。  イスに座ったオレを見て、センは『わざと見せつけています』と、それはそれは分かり易く鼻で笑う。 「ふんっ! 愛山城さんは『先輩』って敬いたいオーラを感じませんので。サーセン」 「オキジョー。コイツ、シメていいぞ」 「そこは僕なんですか」  正面に座ったオキジョーを見ながら、センを指さす。生意気な後輩だ。ちっとも可愛くないぞ。  オキジョーに懐いている後輩や女性職員、果ては信頼している上司は沢山いるのだが。ここまでオレに対するヘイト感情が露骨だといっそ、腹が立つな。 「沖縄先輩に迷惑かけてばっかだと、いつか女の人に刺されるッスよ?」 「なんでだよ」  オレがオキジョーと一緒にいて、どうして刺されなくてはいけないのか。  すると今度は、センがオレを指さしてきた。 「野暮ったい黒髪と、鋭い三白眼。不愛想で面倒くさがりだし、しかも口が悪くてコミュニケーション能力皆無。だけど社内で憧れの的、沖縄先輩にべったりって……。これだけのステータスを保有しているんスから、さすがに俺の言い分が分かりますよね? 愛山城さんは女性から疎まれて当然ッスよ」 「──パワハラだぞ」 「──どちらかと言うと『モラハラ』ですかね」  要約すると、嫉妬ってことか。  オキジョーのツッコミは無視して、オレはデスクに突っ伏す。 「別に、イヤイヤやらせてるわけじゃない。利害は一致してる」 「毎回そう答えるッスよね? ウソくさいッス」 「なまらウゼェ……」  女に刺されるんじゃなくて、オレはセンに刺される気しかしないぞ。……と言った方がマジで刺される気がするので、オレは口をキュッと閉じた。

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