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今までも何人かに、似たようなことは訊かれてきた。
カオリが死んで、オレがカオリの代わりになったあの日から。あまりにも一緒にいるから、勘違いされたんだろう。『付き合ってるのか』とか『どっちかは絶対好きだろ』とか……。オレとオキジョーの関係に、名前なんて無いのに。
言われまくって『メンドくせぇ』と苛立つようになった、因縁の質問。この質問はある意味、オレにとって禁句のような話題だ。
「オレが、オキジョーを……っ?」
──なのに、なんでか今のオレは……激しく、動揺していた。
「なに、言って……オレとオキジョーは男同士だぞ?」
「それ、今の俺に言います?」
「うぐっ。わっ、悪い……っ」
動揺しすぎてセンの気持ちを失念してしまったオレは、慌てて謝る。
オキジョーへの気持ち云々よりも、今はセンからの告白が最優先だろうが。気が動転しすぎだろ、落ち着け。センを見習え、バカ。
……そう、問題はセンだ。
一歩間違えれば、オレとオキジョーは【そういう関係】に見えているはずなのに……疑っているくせに、センはオレに告白してきた。それは、どのくらいの勇気が要るんだろう。
告白されたことはおろか、告白なんかしたこともないオレには当然、分かんねぇ。
しっかりとオレを見据えて、震えもしないで手を握って、ヘタしたら引かれるかもしれないカミングアウト兼、告白。内心でセンは、どのくらい慌てているんだろうか。
……そんな相手に、雑な返しはしちゃいけねぇ。
「オレ、は……ッ」
ただ、答えが出てこない。
センからの質問は、至ってシンプルだ。『イエス』か『ノー』で答えられるくらい、単純だった。
──だけど、考えたこともなかったんだ。
──オレはオキジョーが、好きなのか?
好きとか嫌いとか、そんな感情でオキジョーを見たことはない。だって、カオリはオキジョーをそんな目で見ないだろ。
オレはカオリの代わりで、幼馴染で親友で同居人で同僚で……。そこに恋愛的な好意なんてものは、カケラたりとも必要ねぇんだから。
「もしも、沖縄先輩を好きじゃないんなら……今晩と明日、俺と一緒に過ごしてください」
クリスマスデートの誘い、というやつだろう。恋人いない歴イコール年齢のオレでも、分かる。
予定は当然、無い。あのアパートに戻ったってオキジョーはいないし、一人っきりだ。
いつもはオキジョーの作ったシチューとケーキを食うけど、そんな予定も今年は、無い。
交際云々は保留としても、クリスマスを一緒に過ごしてやるくらいなら。……そう考えかけて、閉口する。
──そんな雑な対応をしていい相手じゃ、ない。
「告白、嬉しいよ。……セン、ありがとな」
オレの言葉に、センの指が震えた。
この言葉は、ウソじゃない。縁の無い話だったから驚いたけど、不快ではなかったし、センのことを嫌ったりも当然しないさ。
「本当に嬉しいって思ってる。ウソじゃねぇ」
いつもなら内心でなんと思ってもあまり口にしないけど、きちんとそれは言葉にする。勇気を出して告白してくれたセンに、オレも敬意で応えよう。
──だけど、オレは優しくないから。
「──セン。……ごめんな」
大事な後輩を、傷付けると分かっていながら。
オレは、自分の気持ちを返した。
3話【優先すべき相手】 了
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