31 / 47

3 : 11

 今までも何人かに、似たようなことは訊かれてきた。  カオリが死んで、オレがカオリの代わりになったあの日から。あまりにも一緒にいるから、勘違いされたんだろう。『付き合ってるのか』とか『どっちかは絶対好きだろ』とか……。オレとオキジョーの関係に、名前なんて無いのに。  言われまくって『メンドくせぇ』と苛立つようになった、因縁の質問。この質問はある意味、オレにとって禁句のような話題だ。 「オレが、オキジョーを……っ?」  ──なのに、なんでか今のオレは……激しく、動揺していた。 「なに、言って……オレとオキジョーは男同士だぞ?」 「それ、今の俺に言います?」 「うぐっ。わっ、悪い……っ」  動揺しすぎてセンの気持ちを失念してしまったオレは、慌てて謝る。  オキジョーへの気持ち云々よりも、今はセンからの告白が最優先だろうが。気が動転しすぎだろ、落ち着け。センを見習え、バカ。  ……そう、問題はセンだ。  一歩間違えれば、オレとオキジョーは【そういう関係】に見えているはずなのに……疑っているくせに、センはオレに告白してきた。それは、どのくらいの勇気が要るんだろう。  告白されたことはおろか、告白なんかしたこともないオレには当然、分かんねぇ。  しっかりとオレを見据えて、震えもしないで手を握って、ヘタしたら引かれるかもしれないカミングアウト兼、告白。内心でセンは、どのくらい慌てているんだろうか。  ……そんな相手に、雑な返しはしちゃいけねぇ。 「オレ、は……ッ」  ただ、答えが出てこない。  センからの質問は、至ってシンプルだ。『イエス』か『ノー』で答えられるくらい、単純だった。  ──だけど、考えたこともなかったんだ。  ──オレはオキジョーが、好きなのか?  好きとか嫌いとか、そんな感情でオキジョーを見たことはない。だって、カオリはオキジョーをそんな目で見ないだろ。  オレはカオリの代わりで、幼馴染で親友で同居人で同僚で……。そこに恋愛的な好意なんてものは、カケラたりとも必要ねぇんだから。 「もしも、沖縄先輩を好きじゃないんなら……今晩と明日、俺と一緒に過ごしてください」  クリスマスデートの誘い、というやつだろう。恋人いない歴イコール年齢のオレでも、分かる。  予定は当然、無い。あのアパートに戻ったってオキジョーはいないし、一人っきりだ。  いつもはオキジョーの作ったシチューとケーキを食うけど、そんな予定も今年は、無い。  交際云々は保留としても、クリスマスを一緒に過ごしてやるくらいなら。……そう考えかけて、閉口する。  ──そんな雑な対応をしていい相手じゃ、ない。 「告白、嬉しいよ。……セン、ありがとな」  オレの言葉に、センの指が震えた。  この言葉は、ウソじゃない。縁の無い話だったから驚いたけど、不快ではなかったし、センのことを嫌ったりも当然しないさ。 「本当に嬉しいって思ってる。ウソじゃねぇ」  いつもなら内心でなんと思ってもあまり口にしないけど、きちんとそれは言葉にする。勇気を出して告白してくれたセンに、オレも敬意で応えよう。  ──だけど、オレは優しくないから。 「──セン。……ごめんな」  大事な後輩を、傷付けると分かっていながら。  オレは、自分の気持ちを返した。 3話【優先すべき相手】 了

ともだちにシェアしよう!