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雪は音を反射しないから、普段よりも世界が静かになる。いつぞやにエロゲのノベライズで読んだ知識がなぜか今、ハッキリと思い出された。
ちなみに走馬灯ってのは、自分が危機的状況に陥ったときに過去の経験から現状の打開策を見出そうとする生存本能だと、誰かが言っていた気がする。
……そんな豆知識未満の雑学もなんで今思い出してるのか、よく分かんねぇ。
事務所が、凄く、静か。きっと外は、雪が降っているんだろう。
……だから、どうした?
「セン……? 今、なんて……っ?」
静かすぎる事務所に、自分の声だけが響く。まるで雪みたいに、溶けて消えたけど。
そして……なんて言ったのかを訊いてはみたけれど、実際は分かってる。
──生まれて初めて、告白された。しかも、まさかの同性から。
しかもしかも、相手はオレのことを妬んでいたはずの後輩だ。予想外すぎる展開に、もう一度確認の意を込めて訊き返した。
そんなオレから、センは目を背けない。
「だから、愛山城さんが好きなんスよ」
「オレが? ……オキジョーの間違いじゃなくてか?」
「さっき俺、否定したじゃないッスか」
やたらと冷静なセンが、うんざりしたような顔を浮かべた。なんで告白されたっぽいオレの方が動揺してるんだよ、マジで。
センの肩に置いていたオレの手を、センから握られた。その手はヤッパリ震えていなくて、堂々としている。
「面倒くさがりで沖縄先輩に迷惑かけてばっかりで、自分じゃなんにもできなくて、口も目付きも悪くておっかない愛山城さんが、好きッス」
「どのへんが好きなのか全然分かんねぇ」
悪意は感じても、好意は感じない言葉にギョッとした。自分で言うのもなんだが、オレは本気でそういうイヤな奴だからな?
するとセンが突然、顔を赤くする。
「──可愛いじゃないッスか」
……えっ、どこが?
しかし、好きって思うポイントは人それぞれなんだろう。どこがどう可愛いのか訊いたところで事態はなにも変わらないだろうし、その点に関しては閉口。
けど、なにか言わないといけない。いくらメンドくせぇことは嫌いなオレでも、コレに関してはそんなこと考えちゃいけねぇ。
「セン、あのな? ……オレ、お前はオキジョーが好きだと思ってたから、びっくらこいたっつーか……」
「ウス」
「だから、いや、なんつーか。……偏見は、ねぇよ? センがマジで男を好きでも、別にオレは明日から距離を取るつもりとかはねぇさ。けど……」
勿論、引いたりはしない。そして、冗談を言われてるわけじゃないってことも、分かってるつもりだ。
──センは本気で、オレが好き。
──でも、オレは……?
「愛山城さん」
オレの手を握るセンの手に、力が籠る。
ついこの前もオキジョーに手を握られたっけとか、そんなことを考えられるくらい……頭のどっかで冷静な自分もいて、それにも驚く。
依然オレを真っ直ぐに見据えるセンが、真剣な顔をしている。
「──前ははぐらかされたッスけど、今度は答えてください。愛山城さんは、沖縄先輩のこと……好き、なんスか?」
──それはあまりにも、ドストレートな質問だった。
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