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 仕方なく、イスに座り直す。そうすると、黙り込むセンがオレから手を放した。 「で? わざわざオレを呼び止めるほど重要な話ってなんだよ?」 「大人気ない言い方ッスね……」  促してみるも、センはなかなか本題を話そうとはしないままだ。本題から逸れたジャブ的な雑談を話す気配も、感じない。  こういうとき、オキジョーならきっと待つだろう。相手のペースに合わせて、決して急かさず穏やかに、それでいて優しく。  だけどオレはオキジョーじゃないから、急かすし荒いし冷たいぞ。よって、痛いだろうところをズバッと口にする。 「──どうせ、オキジョーとカノジョのことだろ。泣きたいならここで泣け」  あれだけオキジョーに懐いてたからな。薄々分かってたぞ。別にオレは、男同士とかそういうのに偏見はないからな。マジで、だ。  そもそもそんなモン持ってたら、オキジョーを慰めるためにケツなんて差し出さねぇさ。  オキジョーの親友であるオレに、オキジョーのことを相談する、か。なかなかいい人選だと思うぞ。力になれる気はしないが、相談内容がオキジョーなら仕方がない。向いていない恋バナでも、努力はしよう。  なんて、我ながらの名推理だと思っていたのだが。 「──はいっ? なんで今、沖縄先輩が出てくるんスか? ……えっ、泣く? 俺が……えっ、はぁっ?」  センの反応は、想定外のものだった。 「あァ? だってお前……好きなんだろ? オキジョーが」 「はぁあッ?」  ヤベェぞ。生まれて初めて、後輩に睨まれた。……ちょっとビビる。  想定外中の、想定外。あろうことか、センはさっきまで『顔が怖い』と言っていたくせに、オレと遜色ない目付きをしているではないか。……これは確かに、ビビるな。ちょっと反省。  憤慨した様子のセンを見たまま、オレは頬を掻く。 「もしかして、オレの勘違いか?」 「そうッスね。それはもう、清々しいほどに」 「おぅっふ、びっくらこいた……」  そうか、センは別にオキジョーが好きってわけじゃなかったのか。それは申し訳ないことを言ってしまったな。  不機嫌そうに眉を寄せたセンをしっかり見つめた後、小さく頭を下げる。 「悪ぃ。やけにオキジョーのことで噛み付いてくるから、てっきりソッチなんだと思ってた」  すると、センはオレを睨んだまま素っ気無く呟く。 「もしもそうだったら、愛山城さんはどうしてたんスか?」 「別に、どうも。センがホモでも、オレは気にしない」  相談に乗れるかどうかは別として、話くらいなら聴ける。そういうつもりで答えると、センに目を逸らされた。 「……それ、本気ッスか?」 「ん? あぁ」  んん? なんだ? どういう意味の動きだ、それは?  気付くといつの間にか、事務所内にはオレたちだけだ。今なら、思う存分なんでも話せるだろう。そんな空間となっている。  もしかして、オキジョーじゃなくて好きな男がいるのか? コレは、そういうカミングアウトと相談をされる流れ?  だとしたら、さっきの『飲みに行きませんか』発言も納得だ。そういうのを一人で抱えるのは、たぶん、しんどいんだろうな。  オレは心の中で力強く頷き、センの肩に手を置いた。 「大丈夫だ。オレは偏見とかが無い。話くらいなら聴ける」  目の前に座るセンが、オレと視線を合わせる。その目は、どこか縋るような、熱っぽいような……。  なんとも言えない目をオレに向けたまま、センは……。 「そうスか」  ──とんでもないことを、口にした。 「──その相手が、愛山城さんでも?」  瞬間。事務所が、シン……と、静まり返る。  だからこそ、聞き間違えるはずがない。 「──俺は、愛山城さんが好きッス。入社した時から、ずっと……ずっと、本気で好きッス」  想定外な言葉に。 「……んえっ?」  オレの思考は、若干フリーズした。

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