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雪は、頼んでいないのに降ってくる。
フワフワと軽くて、一見するとキレイなはずのそれらは……時間が経ち、質量を増し、素直に『キレイ』と言えないものになって、メイワクなものに変わっていく。
──だから、オレの心象は【雪】だ。
オキジョーの幸せを、心から願った。それがノナガサンとの交際でチラチラと降ってきたのに、見ているとどんどんイヤな気持ちになってくる。これを雪と言わず、なんと例えようか。
それでも雪は、時間が経てば溶けるものだ。
──なら、この感情は?
「愛山城さん、この後って予定とかあるッスか?」
冷たい思考の海に飛び込みそうなところで、現実へ戻される。きっとオレを送って帰ろうとか思ってくれてるんだろうセンが、話題を振ってきたからだ。
「帰って、なんか色々やって。……寝る」
「予定は無し、っと」
人の話をちゃんと聴け。予定はビッシリ詰まってるだろうが。堪らず眉間にシワを寄せて、センを見上げる。
オレの視線に気付いたセンが、ビクリと肩を震わせた。
「いや、怖ッ! ただでさえ愛山城さんは顔が怖いんスから、睨まないでくださいよ!」
「っぜぇな……」
相変わらずセンはよく吠える。
てっきり、オキジョーにメイワクをかけないようになったら大人しくなるかとも思ったんだが、あんまり変わってないな。むしろ、噛み付いてくる頻度が上がった気もする。……あっ、オレが雑用を押し付けてるからか、納得。
それにしても、さっきの問いにはなんの意味があったんだ? もしかして、オキジョーがオレとノナガサンで二股かけてんのか探ってきたのか?
睨み上げたまま黙っていると、怯えていたような表情が一変。……ガラにもなく「ゴホンゴホン!」と咳払いなんぞを始めやがった。
「んんッ! ……予定が無いなら、どっか飲みに行きませんか?」
「──拒否」
「──即答! なんでッスか!」
バカか、コイツは? クリスマスなんてどこも混んでるに決まってんだろーが。こちとら、なんのイベントも無い平日ですら外食したくねぇんだぞ。
それにしても、だ。ここでダラダラしていると、かなりの暇人だと思われそうだな。もう少し休んでいたかったが、仕方ない。胸に鉛球が何個もぶち込まれたみてぇな気分だが、なんとか立ち上がる。
──その時だ。
「ちょ、ッと待ってほしいッス!」
──隣に座ったままのセンに、腕を掴まれたのは。
「ハァッ? なんだよ、帰るぞ」
「いや、分かってるッスけど……ちょっと待ってください、マジで」
「まさか、残業の提案か? ダメだぞ、セン。労働基準法に違反する」
「なんで俺が、よりにもよって愛山城さんが絶対してくれないことを提案しなくちゃならないんですか──じゃなくて!」
振り払うのは、簡単だ。なんだかんだと上下関係を気にするセンのことだし『放せ』と言ったら、素直に放すだろう。
だけど、言えなかった。
「ちょっと、もう少しだけ……話が、したいッス」
センがあまりにも、マジな顔をしていたから。
「お、おう……?」
オレはどうするべきなのか分からず、なんとも曖昧な返事をしてしまった。
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