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 クリスマスイブというウキウキな日、だからだろうか。今日はやたらと、職員全員の帰り支度が早い気がするぞ。  定時になるや否や、事務所からすぐに人が減っていった。全員が妙にウキウキソワソワしている、気がする。  この企業はマジでホワイトだなぁとか考えていると、正面のオキジョーが立ち上がった。 「メイ。今晩も、冷蔵庫の中にある物を温めて食べてくださいね」  昨日と同じセリフを吐いて、オキジョーが歩き出す。進行方向には、ノナガサンが立っていた。  ……クリスマスデート、だもんな。行ってらー。  晩メシの返事はおろかそんな一言も言えず、オレは二人の背中を眺める。  他の職員と同じで、二人の背中もどこか明るく見えた。……気がする。  ぼんやりと二人を見送ってから、デスクに突っ伏す。たぶん今、外は雪が降っているのだろう。出勤する前にオキジョーが傘を渡してきたから、そういう予報のはずだ。 「ホワイトクリスマス、か……」  明日、きっとオキジョーは早起きする。律儀で人のいい奴だから、オキジョーはオレたちが車を停めている周辺だけじゃなくて、隣の部屋に住む人の分も除雪してやるんだろう。だから余計に、朝の除雪は時間がかかってるんだ。  それでも……そんなオキジョーにも、今日の雪はロマンチックに見えているんだろうか。  クリスマスに雪が降ってどうロマンチックに結びつくのか分かんねぇけど、世間はそういうモンらしい。 「ホワイトクリスマス? ……が、どうかしたんスか?」 「あァ?」  デスクに突っ伏すオレの目に、ひとつの影が映った。イスに座ったセンだ。  そう言えばコイツ、オキジョーのファンなんじゃなかったっけ? いや、親衛隊? そこらへんの違いはどうでもいいけど。  なんにせよセンは前まで、オキジョーのことでやたらとオレに絡んできてたよな? 頭をデスクに載せたまま、オレはセンの顔を見上げた。 「セン、お前さ。……いいのか?」 「情報が少なすぎてなんのことかサッパリ分かんないッス」 「なまらメンドくせぇ」  善意のつもりで訊いてやったのに、察することができないなんてダメな後輩だな、センは。  しかし、センが可哀想な後輩なのに変わりはない。怪訝そうな表情を浮かべているセンを見上げたまま、オレは優しいセンパイとしてダラダラと言葉を紡いでやろう。 「ホラ、クリスマス。ノナガサンと、オキジョーがさ……さっき、行っただろ。だから……ほら、な? いいのかよって意味だ」 「もうちょっと説明に力を入れてほしいんスけど、なんとなぁ~く分かった気がするんで、もういいッスよ」 「おう」  前言撤回。さすがオレの後輩だ、立派だな。どうやら伝わったらしい。  ポツポツと単語で伝えたオレの善意を受けて、センは明るい茶髪頭をガシガシと乱暴に掻いた。 「別に、いいんじゃないッスか? どっかの誰かさんみたく、沖縄先輩に迷惑かけてるわけじゃないッスし」 「誰だそのわやな奴」 「鏡を見たらすぐに答えが分かるッスよ?」  なんなんだコイツは、失礼だな。何度でも言うが、オレとオキジョーは利害関係の一致した親友だぞ?  ……って。心の底から思えていたのは、いったいいつまでだったか。 「っぜぇ」  デスクに突っ伏し、オレは目を閉じる。なぜか思い浮かぶのは、事務所から出て行く二人の背中だった。  瞼の裏にまでこびりついていたらしいそんな光景のせいで、胸にはまた、重たいなにかが降り込める。  おいおい、勘弁してくれよ。割ともう、キャパオーバーなんだぞ。

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