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今はもう、オキジョーのことを考えたくない。寝よう、寝てしまおう。
すると頭上から、慌てた様子で吠えるセンの声が降ってくる。
「ちょ、マジで寝ようとしてないッスか! ちょ、ちょっと……! おっ、沖縄先輩ッ!」
「ハァ?」
突然センがオキジョーの名前を呼ぶモンだから、オレは慌てて顔を上げた。
センが向いている方向に視線を向けると、名前を呼ばれたオキジョーと目が合ってしまう。
オレと違って後輩想いなオキジョーは、センが慌てた様子で名前を呼んだモンだから、すぐに近寄ってくる。
「森青君、どうかしましたか?」
自分のデスクに戻って来たオキジョーは冷静に、センを見てそう訊ねた。
対してセンは戸惑った様子で、ワタワタキャンキャンと吠える。
「沖縄先輩聴いてくださいッスよ! 愛山城さん、昨日から様子が──」
「センッ!」
──が、その咆哮をムリヤリ断ち切る。
さっきまでデスクに突っ伏していたオレが顔を上げて、しかも大声を出したんだ。センが驚いてオレを見るのは、不思議じゃない。
そして……つられるようにオキジョーがオレを見ているのも、なんら不思議じゃないだろう。
センの名前を呼んだのだから、要件を話さないと。咄嗟にオレは、一枚の資料をセンに突き出した。
「……コレの、コピー……が、欲しい」
「そ、そんなこと言うために……わざわざあんな大声、出したんスか?」
「おう。文句あんのかよ」
もう一度、書類を突き出す。
なんでかセンはげんなりした顔でオレを見てから、書類を受け取る。
「はぁ。……まぁ、コピーくらい別にいいッスけど」
「さんきゅ」
書類を持ってコピー室に向かったセンから視線を外し、パソコンに向き直る。いつも以上に背を丸めて、パソコン以外なにも目に入らないよう、工夫をしながら。
当然、正面に座るオキジョーの顔も見えない。
……危なかった。そう、内心で安堵の息を吐く。
ここでオキジョーに変な気を回させたら、せっかくのクリスマスデートに支障が出るかもしれない。
過保護なオキジョーのことだ。『寝不足だ』なんて言ってみろ? 家に帰ってから、しっかり眠るまで見張られるだろう。
オキジョーがデートをするなんて、珍しいじゃないか。少なくとも、オレはオキジョーがデートしたとかするとかって話を聞いたことがない。
きっと今日は、オキジョーにとっても大事な日になるだろう。普通の人が過ごす、普通のクリスマスデートをして。……普通に、好きな人とセックス、するんだから。
そう考えると、胸の中でまたよく分からないなにかが降り込めた。
──ドサリ。ドサ、ドサ。そんな音が、聞こえてきそうだ。
「メイ、駄目ですよ。後輩にあまり迷惑をかけてはいけません」
正面に座るオキジョーが、そんなことをぼやいた。どんな顔で言っているのかは分からないが、オレは「おー」とだけ返事をする。
好き好んで誰かに迷惑をかけるようなシュミ、オレにはねぇっつの。言わなくたって、オキジョーなら分かっているはずだ。
もしかしてオキジョーなら、オレが抱えているモヤモヤの理由も分かるのだろうか。
……なんて。考えたところで打ち明けるつもりがないのだから、意味なんてない問い掛けだ。
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