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無事アパートまで送り届けてもらった後、オレは空を見上げた。
「さむ……」
容赦なく雪が降っていて、顔に当たるとメチャクチャ冷たい。
せっかくオキジョーが早起きしてやった除雪も、あんまり意味がなくなっている。きっと朝になったら、もっと積もってるだろう。そしたらオキジョーは、また早起きして除雪をするのだ。
そしてなに食わぬ顔でオレに挨拶して、一緒にメシを食って、職場行って……。また、ノナガサンと沢山話すんだろう。
「……っぜ」
雪なんざ大嫌いだが、たまにはいいかもしれねぇとか思うくらい。その程度にオレは、参っているらしい。
だって雪が降ったら、オキジョーは早起きして除雪する。それはオキジョー自身のためとか、アパートの住人のためでもあるけど……オレのためにもなるんだ。そこに、ノナガサンはいない。
雪が降って、氷が隠れた階段を慎重に上がりながら、部屋に向かう。カギは冷えていて、氷みたいだ。
玄関に入り、扉を閉める。おかえりもただいまも言わず、オレは通路を歩き……ふと、足を止めた。
「コ、レ……」
目に入ったのは、オキジョーが除雪する時に着てるウィンドブレーカーだ。ハンガーにかかってるそれに、なんでか目を奪われた。
全然カッコよくもない、機能性だけを重視した防寒具。深い意味もなく触れてみると、想像通りひんやりとしている。
体は冷えてるし、あったけぇ毛布に包まった方が嬉しい。……はず。
──だけど、このウィンドブレーカーがいい。
「オキ、ジョー……っ」
抱き寄せて、顔を埋めてみる。……いや、まぁ、普通に冷てぇわ。
──でも、オキジョーの匂いがする。
匂いだなんだって言ってるけど、オキジョーの匂いなんて正直嗅ぎ飽きてる。一緒に住んでたらそうなるだろ? ガキの頃から一緒だし、なおさらだ。
──それなのに、なんで手放せねぇんだろうな。
「早く、帰って来いよ。オキジョーのくせに、デートなんてするんじゃねぇっつの、バカ」
冷蔵庫の中にあるメシじゃ、ヤダ。
クリスマスはオキジョーの作ったシチューじゃねぇと、意味がねぇ。
留守番させるならケーキも作っとけよ、バカ。
いや、追い出したのはオレか。……追い出したわけじゃねぇけど。
スーツはおろかコートも脱がず、オレは寝室に向かう。ウィンドブレーカーを抱き締めて、そのまま敷布団に寝そべってみた。
「オキジョー……寒ぃ」
今頃、なに食ってんのかな。もう、ホテルとか行ったのか?
オキジョーはセックスもねちっこいほど丁寧だから、焦らしてるって思われてねぇといいけど。
……いや、訂正。
──なにも、思われてねぇといいのに。
「他の奴なんて、抱くなよ。バカ、アホ、シスコン。……クソヤリチン」
なれもしねぇカオリの代わりを志願して。子供なんざ産めもしねぇくせに抱かれて、できもしねぇくせにオキジョーを幸せにしたくて。……今まで、いろんなお願いをして。
──それを、バカなオキジョーは全部叶えてくれた。
──だから……本当にバカなのは、オレだ。
「オキジョー……っ」
そこまで考えて、オレは目を閉じた。
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