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最終話【北の海にのびる道でわらいたい】
どれだけの時間ヤッてたのか、分からなくなった頃。
毛布に包まりながら裸でオレを抱き締めるオキジョーが、身じろいだ。
「メイ、体は痛くありませんか?」
「知らねぇ。けど、明日は休みてぇ」
「体が平気なら、駄目ですよ」
「チッ」
たぶん日付はまだ変わってな──変わったか? どっちでもいいや。
それよりも、満足そうな顔をしてオレの髪を何度も何度もウゼェくらい撫でてくるオキジョーが、憎たらしい。
腰振ってたのはお前だろ。なんでお前はそんなに余裕そうなんだ? こちとら声が掠れてんだよ。
「夢みたいです。メイが僕の、彼女だなんて」
「バカ言うな。カノジョはお前だ」
「そうでしたね。失礼しました」
暴言のつもりだったが、オキジョーは嬉しそうに見える。
……それにしても、だ。オキジョーとの関係性に明確な名前が付いて、なんだか妙にソワソワするな。
そう思っているのはオレだけなのか、オキジョーはとにかく嬉しそうに見えた。
「……なぁ、オキジョー」
「はい?」
「オレさ。……カオリの代わりには、もうなれない。それでも、いいのか?」
オレとオキジョーを繋いでいた一番強固な理由は【カオリ】だ。
カオリの死を嘆くオキジョーが泣かないよう、オレがカオリの代わりになったのが、そもそもの原点。それを壊してしまう結果になったのに、オキジョーは笑ってくれるんだろうか。……泣かないでいてくれるのか、分からない。
──だけどオキジョーは、予想外のことを口にした。
「──なにを言っているんですか? 僕はメイを【香の代わりとして】なんて、そんな風に扱ったことはありませんよ?」
「──ンン?」
怪訝そうな顔を向けられ、オレも似たような顔を浮かべる。
いや、だって……それはないだろ? だってオレは、カオリの代わりとしてそばに居たんじゃ……?
……ンン?
「『香の分も守る』とは言いましたが、あなたを香として扱ったことはありません。その証拠に、妹を抱くわけないじゃないですか」
「そうだけど、それは……あァ? ンン? じゃあお前が、カオリの命日に情けねぇ顔すんのは……?」
「妹の死んだ日なのですから、感傷に浸って当然でしょう。だけど僕はメイがメイだから世話を焼きますし、メイだからずっと一緒にいたいんです」
なんだ? なんか、もう……よく分からなくなってきたぞ?
「つまり……お前は、オレがいたらそれで幸せってことか?」
「ずっとそう言っているじゃないですか」
「カオリとか抜きにして?」
「はい」
なるほど、なるほど。……つまり。
──今までのことは全部杞憂ってことかよッ!
「このバカヤロウがッ!」
「痛ッ、痛いです! えっ、なぜ突然蹴るんですかっ? ちょっと、メイっ!」
「うるせぇ! オレにもワケ分かんねぇからとりあえず蹴られてろ!」
「横暴です!」
「センと同じこと言うんじゃねぇッ!」
メンドくせぇことも、難しいことも……そういうのを考えるのは、いくつになっても苦手だ。そんなの、カオリが死んだあの時から分かってたことだったろ。
だから、しばらくはそういうのを止める。
「腹減ったし眠ぃしッ、あぁッ! なまらメンドくせぇ!」
「メイ、せめて服を着ましょう。風邪をひきます」
「メンドくせぇから着せろ!」
「なんで怒っているのかよく分かりませんが、分かりました」
毛布から出て行こうとするオキジョーの腕を掴んで、力一杯引き寄せた。
メンドくせぇことは嫌いだし、まだ考えなくちゃいけねぇことはある気がする。だけど、今だけは……なにも考えずにいよう。
「ヤッパリまだ、ここにいろ」
「……ふふっ、はいはい」
笑ったオキジョーが、毛布の中に戻ってきた。
だから、オレは。
オキジョーの温もりを求めるように、抱き付いた。
最終話【北の海にのびる道でわらいたい】 了
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