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オマケ 1【手相】

 ※関係性は最終話の後です。  僕とメイは、対照的だ。  そんなこと、誰かにわざわざ言われなくたって分かっている。  それでも僕は、メイと一緒にいたかった。メイ以外、なにもほしくなかったのだ。  子供の頃から抱いていたこの感情は、生涯隠し続けるつもりだった。 『──ハァ? 手相?』  けれど、浅ましい僕はいつも夢見ていたのだ。……メイと、ずっと一緒にいられる未来を。  あの日も、僕は自分の浅ましさに蓋をして、ただの友人としてメイに声をかけていた。 『はい、手相です。この間テレビに【手相で人の人生を読み解ける占い師】が出ていたので、本を買って勉強してみました』 『バカかよ。イヤ、この場合は秀才か? っつぅか、手相だけで人生読み解けるってなんだよ、魔術師か』 『まぁまぁ。試しに、ちょっと僕に読み解かれてください』 『なまらめんどくせぇ……』  高校生になったばかりの、ある日。まだメイと、体の関係を持っていなかった頃。僕は渋るメイの手を握り、手相をジッと見つめた。  そして。  ──あぁ、ヤッパリか。……なんて。そう、自嘲気味に笑いたくなった。 『凄いですよ、メイ。ここの線、分かりますか?』 『素人だぞ、分かるワケねぇだろ』 『ですよね。……ここに線があるんですけど、これは【幸せ婚】を意味しているんです。将来、素敵な人と結ばれる……ということですね』 『はんかくせぇ……』 『馬鹿らしいなんて言わないでくださいよ。真剣に見ているんですから』  そっと、メイの左手を撫でる。  メイほどではないけれど、僕だってこんなものを信じているわけではなかった。  それでも、僕は縋りたかったのだ。  ──メイに、恋愛関連の線がなければいいのに……と。 『……オキジョーは?』 『僕ですか? 残念ながら【幸せ婚】を意味する線はありません』  手を握られたまま、メイが僕を見上げる。  だから僕は【メイに恋愛関連の線がないこと】を願った本当の理由を、ポツリと零した。 『──僕の手にあるのは【片想い線】ですよ』  そう言うと、メイはまた『くだらない』と言ったけれど。  ……どうしても僕は、そう言い捨てることができなかった。  * * *  こんな昔のことを、どうして今さら……。  僕はテレビを見ながら、小さく首を横に振る。  すると、隣に座っていたメイが怪訝そうな顔を向けてきた。 「眠いのか?」 「それはメイの方でしょう? 占いなんて、興味ないくせに」 「おう」  画面に映るのは、手相を見ている占い師。そして、占い師からバラエティ受けする診断を受けた女優の、大仰な反応だ。  メイは昔と変わらず、こうした形のないものに興味がない。今もたぶん『この女優、胸が大きいな』くらいの感想しか抱いていないのだろう。  ふと。……メイが突然、僕に寄りかかってきた。 「ちょっと、メイ……っ。重たいですよ」 「うるせぇ。クッションは喋らねぇ」 「クッションって……僕は人なんですけど」  それでも、こうしてメイが寄りかかってくれたことを『嬉しい』と思ってしまったのだから、つくづく甘い。僕は黙ってメイのクッションになりながら、もう一度テレビに目を向けた。  すると……。 「胡散臭ぇよな、占いって」  メイが、ポツリと呟いた。 「ガキの頃から、星座占いではしゃいだことなんかねぇわ」 「メイはリアリストですからね」 「そんな大それたモンになったつもりはねぇぞ」  学生の頃に『【幸せ婚】を意味する線がある』と言っても、メイは欠片もはしゃがなかったのがいい証拠だ。  メイはテレビをぼんやりと眺めながら、続けて呟く。 「──【片想い線】とか、アホくせぇったらないな」  そう、メイは続けて呟いた。  慌てて、僕は寄りかかるメイを見つめる。 「えっ? それ、憶えて……っ?」 「オレは寝る。おやすみクッション」 「ですから、僕はクッションじゃなくて──って、あっ、メイ! 目を閉じないでください! 誰がメイを寝室まで運ぶと思って……あぁ、もうっ!」  固く、メイは瞳を閉じた。メイの頬は、ほんの少しだけ赤くなっている。……なんてことは、当然なくて。  ──だからこそヤッパリ、僕にはメイだけだな。……なんて。  メイに言ったところで理解されなさそうなことを、僕はぼんやりと考えてしまった。 【手相】 了

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