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オマケ 2【名前】 1

 ※二人の関係性は最終章後です。  メイとの交際が始まってからそこそこの日数が経った、ある日のこと。 「セン、ゲームをしようぜ」 「今ッスか? 仕事中なんスけど?」 「安心しろ、簡単な内容だ。【センがオレのためにコーヒーを用意する】ってゲームだからな」 「それゲームじゃなくてただのパシリじゃないッスか!」  今日も今日とて、メイは森青君に不思議な絡み方をしていた。  この光景を見ていると忘れてしまいそうだが、一応、森青君はメイに告白をした相手なのだが……。 「なるほど、読めたッスよ。だから愛山城さん、さっきから俺の方を見ていたんスね」 「違うぞ、セン。正確には【センのコーヒーの減り】だ」 「より悪質! だったら最初から素直に言ってくださいよ!」 「じゃ、コーヒー頼むわ」 「あぁあ誘導ッ! はいはい分かりましたよ! 用意します!」  ……二人共、あのクリスマスイブが嘘だったかのように普段通りですね。  メイの話によると、森青君からの告白はきちんと断った、と。だけどメイは、森青君と今まで通りに接するとか。お世辞にも上手とは言えない説明で、メイは確かにそう言っていたはず。  だから二人は、今まで通り。事情を知っている僕でさえ、告白をしたとかされたとかが信じられないくらいだ。  変わったと言えば、メイの方。僕との交際を始めたとしても、メイは決めたことを変えなかった。  つまり、メイは僕への負担を少しずつ減らそうとしてくれている。よって、なにかあると森青君にも雑務を頼むようになったのだ。 「いい後輩を持ったなー」  あまりにも不誠実極まりない賛辞を贈りつつ、メイは去り行く森青君から視線を外す。  その流れで、不意に。 「あァ? なんだよ、オキジョー?」 「えっ。なにが、ですか?」 「いや『なにが』って、それはこっちのセリフだべや。こっち見てただろ」 「あぁ、いえ。すみません」  二人が今まで通りなのは、僕としては安心だ。メイはこんな感じだから、誰かに気を遣ったり演技をして接したりなんてできない。つまりメイは、本心から森青君との関係を【今まで通り】で維持しているのだ。  メイを彼女に──もとい、メイの彼女になれたのだから、僕が不安に思う要素なんてひとつもない。メイは僕のメイで、僕はメイの僕なのだから。  ……けれど、思うことがある。 「はい、愛山城さん。コーヒーッス」 「よくやった、セン。お前はいい後輩だな」 「なんですかその、ちょっと大袈裟な褒め言葉。頂戴しますけど」 「おう」  森青君とメイの仲がいいことは、今に始まったことではない。そこは、問題じゃなかった。  問題なのは、今さらながらに気付いた【僕との違い】だ。 「なぁ、セン。オキジョーがさっきから変だ」 「なに言ってるんスか。沖縄先輩が変だなんて、そんなことありえないッス」 「センのオキジョーに対する絶大を越えた信頼感はなんなんだ? わやだぞ」  ……どうだろう。お分かりいただけただろうか。 「まぁ、センがなにも思わねぇならいいか。オキジョー、仕事しろよ」 「と言いながら自分の書類を沖縄先輩に渡さないでください!」  二人の距離の近さ? いいや、違う。僕が気にしているのは、そこじゃない。  僕が、気にしていること。それはメイが遣う【呼称】だ。  ──森青君は下の名前で呼んでいるのに、僕のことは子供の頃からずっと苗字呼び。……つまり、そういうことだ。

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