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オマケ 2 : 2
幼馴染みで親友だった僕とメイは、小さい頃からずっと一緒にいた。
僕は子供の頃、メイのことを『茨君』と呼んでいたのだが……妹の香が死んだ後、呼び方を『メイ』に変更。
理由は、単純。泣きじゃくる僕に優しくしてくれたメイに恋をしてから、狭量な僕は『どうにか周りとの差別化を狙いたい』と思ったからだ。きっとメイは、そんな真意を知らないだろう。
しかし、メイは変わらなかった。メイは子供の頃からずっと、一貫して『オキジョー』呼び。緩く、ラフな口調で僕を呼んでいた。
そこに、不満はない。苗字呼びではあるが、なんとなくメイからそう呼ばれると愛称のようにも聞こえたからだ。むしろ、メイから『オキジョー』と呼ばれるのは好きだった。
なのに僕は、今──。
「──メイ、ひとつ質問です。……僕の下の名前、憶えていますか?」
──なにを必死に、メイと向き合っているのだろうか……。
場所は変わって、アパートの一室。仕事を終えた僕たちは今、向かい合って座っていた。
突然僕に呼び止められ、あまつさえ座るように指示をされて。目つきの悪いメイがその瞳を丸くしているのは、納得しかない。
だが、僕が真剣だと伝わったのだろう。メイは現状に至るまでの経緯をなにも理解できていない中、それでも僕の問いに答えてくれた。
「おう」
「その言葉に偽りも嘘もありませんね?」
「おう」
「漢字で書けますか?」
「……おう」
怪しい。今の間は、大いに怪しいですよ。
しかしこの際、漢字は保留にしよう。一先ず僕は、ホッと胸を撫で下ろした。
メイからすると、謎の問い掛けだろう。小首を傾げつつ、メイは眉をむきゅっと寄せた。
「今日のオキジョー、なんか……はんかくさいな」
「失礼な! 馬鹿げてなんかいませんし、アホらしくもないですよ!」
「そこまで必死になられると、余計に怪しいっつの」
そう言い、メイはため息を吐く。それはもう、わざとらしいほどに。
それからメイはジロリと、僕のことを見つめた。
「もしかして、呼び方に不満があんのか? だから今日はセンとオレを交互にジロジロ見てたのかよ」
「うっ、すみません。ですが『不満』と言うほどではありませんよ」
「ウソだろ、まさかの当たりかよ。お前、なまらメンドウな奴になったな」
メイの名推理にも驚きだが、自分自身の面倒くささにも驚きだ。メイに言われなくたって自覚していた程度にだが、僕はおかしくなっている。
ずっとずっと、好きだった人。メイと付き合えて、どうしてそれだけで満足できないのだろう。自分の矮小さに、嫌気が差す。
なんて、僕が内心で鬱々とし始めたとはきっと気付いていない。メイはガリガリと後頭部を掻きつつ、僕から視線を外したのだから。
「呼び方なー。……じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」
「ですから、その。森青君、みたいに……」
「センみたいに?」
下の名前で呼んでほしい、なんて。そんなこと、直接伝えるのは恥ずかしい。それに僕は、メイからの『オキジョー』呼びだって好きなのだ。
だけど、下の名前も捨てがたい。なんとも煮え切らない態度の僕を見て、メイの眉間にはより深い皺が刻まれていった。
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