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オマケ 2 : 4 (了)

 僕が感動を噛みしめている間も、メイの表情はどこか不機嫌そうだった。 「メイ? どうしました?」  気付いた僕は、直ちにメイへと質問。僕の不満を解消しようとしてくれたのがメイなら、メイの不満を解消するのは僕の役目だ。このポジションこそ、本当に【誉れ】だろう。  すかさず訊ねた僕を見て、メイはムスッとした顔のまま答える。 「なんつぅか、あれだ。名前なら、お前だってそうだろ。オレのこと、ずっと『メイ』って呼びやがって。オレはそんなカワイイ男じゃねぇっつの」 「メイは可愛いです。公式での解釈違いはやめてください」 「お前、あの夜から謎に吹っ切れたよな……」  なんてことを言うのですか、まったく。メイは世界で一番可愛いですよ、まったくもう。  なんて論争を始めたら、メイの機嫌はさらに悪くなる。説明されなくたって予知できた未来を回避するため、僕は一旦【メイの可愛さ】について語ることをやめた。  しかし、言われてみるとそうだ。僕は愛称として『メイ』と呼んでいたが、メイ本人からすると不満なのかもしれない。今までそういう話題になったことがなかったから、気付きもしなかった。  ならば、僕も。姿勢を正した僕に気付いたメイは、胡乱気な視線を僕に向けた。 「は? なんだよいきなり、背筋なんて正して──」 「──好きですよ、茨」  ピタッと、メイの動きが止まる。この話題を始めた瞬間よりも、目を丸くしながら。  メイを下の名前で呼ぶなんて、いつぶりだろうか。なぜだか無性に、頬が熱くなってしまう。  けれどきっと、メイは平然とした態度で返事をするのだろう。 「おう」  ほら、やっぱり──。  ……あれっ? 「あァ? なんだよ、ジロジロ見やがって」 「いえ。……ふふっ。なんでもありませんよ」 「なんでもねぇ奴の顔じゃねぇだろ、ったく」  フイッと、メイが僕から顔を背ける。おかげで、メイは隠せなくなった。  ──ほんのりと赤くなった耳が、丸見えなのだから。  お互い、下の名前で呼ばれるのは耐性がないらしい。僕はクスクスと笑いながら、そっぽを向くメイに声をかけた。 「やはり、僕のメイは可愛いですね」 「オキジョーの中でそうなら、別に否定はしねぇ」 「論争が面倒だから、でしょう?」 「分かられてるってのも、それはそれでわやだな。……あと【オレがお前の】なんじゃなくて【お前がオレの】だからな」 「失礼。そうでしたね」  まだ当分は、このままで。可愛いメイを見つめながら、僕は微笑みを浮かべてしまった。  ……ちなみに、余談だがその後。 「オキジョー、コーヒー飲みたい」 「あぁっ! 駄目ですよ沖縄先輩! この人を甘やかすのは許さないッス! 沖縄先輩はもっとご自分に降りかかる迷惑も考えてください! 自立させましょう、自立!」 「だ、そうですよ。困りましたね、メイ」 「だな」  次の出勤日に、僕たち三人は普段通りのやり取りをしていたのだが。 「──オレとセン、優先度が高いのはどっちだ? ……なぁ、ワカトモ?」 「──っ!」  まさかの、メイが下の名前呼びを日常に導入させるなんて……! 予測していなかった対応に、僕は……っ! 「ごめんなさい、森青君。僕は、僕は……ッ!」 「あぁああもう! 愛山城さんマジで! ホンットマジで!」 「負け犬の遠吠えは耳に心地いいなー」 「この幼馴染みコンプレックス共め!」  さりげなく僕もディスられてしまっているような──じゃなくて。  メイは【自分が楽をする】という方面で、非常に強かな青年だ。メイのデスクからコーヒーカップを奪い取った僕は、メイの賢さを痛感したのだった。 【名前】 了

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