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あれから先輩と行為をするようになった。そんな関係になってからも先輩は「ダメなところが可愛い」「俺が面倒見てやらなきゃ」と相変わらず可愛がってくれた。
「千草、可愛いよ……ああ、もう出る……っ」
ゆさゆさと揺さぶられながら先輩は千草の中に欲望を吐き出す。
先輩が達した後に、前を触ってもらってようやく千草も出すことができる。後ろを犯されるのは気持ちいいが、さすがに前の刺激なしではイけない。
「お尻だけでイけるようになろうね」と言われ、千草は頷いた。先輩の期待に応えたかった。でもなかなか簡単にはイけなかった。
なんでだろう、と考えた。気持ちいいのは気持ちいい。でも、何かが物足りない。
先輩の感じている顔を見ながら、がんがん奥を突かれる。「あっ、あっ、あ」と声は出るのに絶頂には遠い。せっかく先輩がこんな自分を愛してくれているのに、と思うと情けなくなった。
──自分はまた、藍季の時のように失敗してしまうのだろうか。
藍季の顔が浮かんだ。まだ恋が何なのかよく分かっていなかった頃の淡い感情がぶわりと蘇る。
「っ──!」
かっと身体が熱くなり、全身がゾワゾワと痺れる。
「あっ、あ!あっなんか、きてるっ……!」
腰ががくがく揺れ出す。いつもと違う反応をする千草に先輩は驚いた顔をした。
「やだ、いく……いっ、ちゃ……!」
太腿をびくびく痙攣させながら千草は初めて後ろだけで達した。
やったね、と先輩は喜んでくれた。「いい子だよ、千草」と頭を撫でながら抱き締めてくれた。
なんでイけたのか。千草はすぐに気付いてしまった。
藍季の顔を思い浮かべたからだ。
それから、先輩には悪いと思いながらも行為の度に藍季を想いながら抱かれた。そうすると今までの苦労が嘘のように前を触らずに達することができた。
でもそう簡単に物事が進むわけでもなく、ある日うっかり「あい」と呼んでしまった。ちょうど出す瞬間だった。
「あいって誰だよ」
先輩は真っ赤な顔で激昂した。繋がったまま何発か殴られた。腹いせと言わんばかりに乱暴に犯された。出すだけ出した先輩にマンションを追い出された。
先輩が怖くてすぐに仕事を辞めた。
でも一度覚えてしまった快楽を忘れることができず、男を求めるようになっていた。そうしているうちにいつしかヒモのようになっていて、男を取っかえ引っ変えしながら生活するようになった。
あの夜、本当は縋るべきじゃないって分かっていた。
「出ていけ!このデブ!」
酷い言われようだなあと自分のことなのに妙に冷静に思った。
一応付き合っていたはずなのに、彼女ができたから出ていけと彼の家から蹴り出された。つまるところ浮気をしたのはあちらなのだ。
でも、彼を怒る気も起きなかった。浮気しているなあ、というのは薄々感じていたのだ。いつかこんな日を迎えるだろうと予感していた。
ヒモ生活を送るようになってから何度も経験してきたことだ。今更悲しくもない。これからどうしようかと呑気にぽやぽや考えていたくらいだ。
なのに、藍季がそこにいた。
何年ぶりかに見た藍季はすっかり大人になっていた。同時に、懐かしい記憶が一気に蘇る。いや、この数年、千草の心の中にはいつも藍季がいた。自分を慰める時も男に抱かれる時も、思い浮かぶのは常に藍季の顔だ。
会って確信した。──未だに、まだ、藍季が好きなんだって。
こんなどうしようもない生活を送る自分と関わらない方が藍季にとって良いなんてことは分かっていた。でも、数年ぶりに会った大好きな人を前に、我慢ができなかった。
「あい。一晩だけ泊めてくれないか」
藍季は優しいから、断れない。それを知ってて、縋った。
一晩だけ。一晩だけ、思い出に浸らせてほしい。
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