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大会の後、藍季は膝の手術をした。
結局藍季が膝を怪我していたことを知っていたのは千草以外にはいなかったらしい。夏休み中いつの間にか手術をしていたことが何かの拍子に広まり、「なんで言わなかったんだよ!」とチームメイトが問い詰めに言ったと聞いた。
千草は見舞いに行かなかった。あの試合で、完全に嫌われた。きっと藍季も千草の顔を見たくないだろう。
寂しかった。でも、この先も藍季がバレーを続けられるならそれで良かった。
それから卒業まで、藍季と会話することはなかった。
高校は藍季とは別の高校に進学した。入学した高校でバレー部の先輩に勧誘されたが、断った。自分にはもうバレーをする資格はないと思った。
でも、せめて藍季が出ている試合をこっそり観に行くくらいは許されるだろうか。──そう思っていた。
だか、藍季は高校でバレー部に入っていなかった。それを知ったのは、地区大会を観に行った時。コートにもベンチにも観客席にも、体育館のどこにも藍季の姿はなかった。
「……ああ。俺は間違っちゃったんだ」
こんなことになるなら、あの時藍季に試合を続けさせてあげればよかった。藍季のバレーへの情熱を吹き消してしまったのは、紛れもなく自分だ。
歓声の上がる観客席に千草はぽつんと立ち尽くした。
「あい、ごめん」
千草の心は、ポキ、と小さな音を立てた。
高校を卒業し就職をきっかけに、千草は地元から都会へ出た。
この性格で営業なんてできるのか、と家族には心配された。それは千草も不安だったが、教育係の先輩が優しくて助かった。
社会人になっても相変わらず泣き虫は直らなかったが、先輩がよしよし、と慰めてくれた。
なかなか契約が取れなくて落ち込んでた時に先輩が「飲みに行こう」と誘ってくれた。
「佐山、今夜泊まりに来いよ」
酔ってふらふらだった自分を一人で帰すのを心配してくれたのだと思った。先輩の言葉に甘え、千草はそのまま泊まることにした。
「──なあ、佐山。いいだろ?」
マンションに着くなり、先輩に組み敷かれた。
後から思えば、優しくしてくれたのも下心があったからで、弱った千草をつけ込み酔わせたのは作戦だったのだろう。
その夜、初めて男と寝た。案外簡単にできてしまうものなのだと知った。
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