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最終章 共依存7

 将大が一年間の海外留学を決めていたことは知らなかった。  突き放されたあの日から、宏輝は将大と会うことはなく、大学内で姿を見かけてもあからさまに避けられるようになっていた。宏輝はひとりになった。  唯一声をかけてくれそうな間宮でさえ、近寄ることはなかった。律儀な男だ。こういうときだけ頑なに約束を守ろうとする。宏輝は寂しさに打ち勝てず、再び殻に閉じこもるようになる。  宏輝は将大のアドレスに毎日一通のメールを送るようにしていた。  文面は日常の些細な出来事。  当然、返信はない。  一方的に送ることで、電波を通して将大と繋がっていられると本気で思っていた。だが、それは一時的なものに過ぎない。一週間も経たないうちに気力をそがれた。  将大が隣にいることが当たり前だった世界。  どうしてあの日、将大はあんなに冷たい言葉を放ったのだろう。何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。どうして最後、だなんて言葉を言われてしまったのだろう。  最後――。 「……いやだ」  自宅アパートの一室で、宏輝はスマートフォンを手に、長文メールを作成しては削除しを繰り返す。将大に嫌われない文面。重たいと思われない内容を必死で考える。だめだ。何度考えても将大を縛り付けるような言葉しか思い浮かばない。 「……いやだよ、マサくん……」  悩みに悩んだあげく、宏輝はたった四文字の言葉を将大へ送る。 『会いたい』  将大からの返事が来たのは、それから一晩経った翌日の朝のことだった。 「――……宏輝」  将大は傘を差さずに、大粒の雨に打たれたまま、その場にたたずんでいた。  宏輝は慌てて自分の傘を差し出す。  再会の言葉はなかなか紡がれることはなく、ふたりはしばらくの間、雨空の下にいた。  都会の喧騒から抜けた、静かな公園。夕方。いつもは夕暮れが美しい時間帯なのだが、今日はあいにくの雨模様で、宏輝たちのほかに人影はない。  この公園で将大と出逢った。  この公園で将大と喧嘩をした。  この公園で――宏輝は人生最大のトラウマを負った。  それ以来、宏輝と将大はこの公園に来たことがない。 「……雨、すごいね」 「傘、忘れた」 「だろうと思った。急に降ってきたからね」 「……ああ」  ざあざあと降り注ぐ雨が、ふたりの会話を途切れさせていく。  雨を含んだ土の匂いが鼻をつく。 「――……怖かったんだ」  と、将大が言う。  宏輝は将大のほうに身体を寄せ、その先を封じる。 「わかってる……僕は全部わかってるから……」  宏輝もまた傘を投げ出し、全身で将大を感じ取る。宙を舞い落ちる傘がゆるりと放物線を描く。傘は地面にできた水たまりに着地し、そして転がっていった。 了

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