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降誕祭前前夜
だいたいなぜこの木枯が時折吹く寒い時期に狩に出たのか
イブトーレスには自分自身に懐疑心が渦巻いていた。
嫁を取れという、たまにしか領地の屋敷に顔を見せぬ母親を避けるためか、
それとも、
さしてめでたいとも思っていない邪神の降誕祭に多少罪の意識が芽生え領地の民にほんの少しの奉仕をするためか、
なにはともかくイブトーレスの牝馬は黒い森の奥へと向かう。
昼間でも薄暗いその常緑の高い木立に囲まれたその森は、
滅多に来ない人という侵入者を観察するように、葉の音すら秘めているようだった。
「 人が立ちいらない割には露道が整えられているな 」
後ろに従った下男に語るともなく言うと、
すかさず、
「 森の外れの木こり
に大まかなことは管理させております 」
と答えが返ってきた。
「 木こり?
聞いたことがないな……木こりの小屋がこの森にあるのか? 」
「 はい、……」
しまった余計なことを言ってしまったと暫し口を閉じた従者を叱責する舌打ちでその先を促す。
「 はぁ、
もう随分前から、森の管理は任せております 」
「 父上の代からか? 」
「 あ……いえ、もっと昔だと 」
「 ふーん、父上からは聞いたことはないな 」
「はい 」
口籠もりながらも男はその先を続けた。
「 男爵さま、
いえ伯爵様は滅多にこちらには脚をお運びにはなりませんから 」
最近、ランスワット家では、
父となる長が他所の領地下賜され伯爵の称号を賜った。
そのため、その長子であるイブトーレスにも元の領地を治める爵位が下賜され、息子が男爵となったことを思い出したのか、慌てて訂正する従者に苛立ち、
やはり、田舎雇いの男だと軽く舌打ちをしたイブは背後を振り返りもせず馬の脚を早めた。
狩猟用の森の中の別宅に着くと、
早駆けして痛んだ体躯を休ませることなく森の奥へと向かう。
しばらく森の中を行くと、エメラルド色に染まる美しい湖に出る。
「 今日は牡も姿を見て見せませぬな、
昨夜は満月でオオカミの群れが川を登ってようですから……
追い立てられたのかも知れませぬ』
従者のその慰めとも言い訳とも聞こえる語りかけをよそに、
イブトーレスはその美しい湖の辺りで馬を降りる。
確か、この湖の南の岸辺には魔女の媚薬として貴重な薬草が生えていたはず。
そのことをふと思い出した
イブトーレスが従者をその場に留め置き湖の辺りを少し南下する。
昼下がりの陽光に水面が反射しキラキラと光っている湖をしばし眺めていると、それとは反対にしんと鎮まりかえった森の奥からは僅かな唸り声のようなものが聞こえてきた。
続く
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