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アゲハチョウ 12
「やはり槻代さまは、お前には、何も知らせなかったか……そんな気はしていたがな」
「厄介な大掃除に行くのだと、仰せになられました」
「なるほど、確かに大掃除だ」
「え?」
苦虫を噛んだような顔で、辰砂さまが同意を示した。
「国境地帯がきな臭いのは、珍しいことではないさ。ただ……今回は、少し勝手が違う。国王陛下の益にならない者どもを、それとわからぬように束ねて、連れて行かれた。陛下のための、国内の大掃除だ」
反対勢力を連れての進軍?
それは背後から討たれることも覚悟でのことか。
旗印に立つということは、逃げかえることも許されないということ。
前に進むしかないということ。
そして。
「では……それでは、殿下は……」
「ああ。国境であり得ない無茶をするだろうな。命を落とすか、敵の手に落ちるか……どちらにせよ、戻っては来られまい。捨て身の大掃除だ」
旗印の殿下が命を落としたり、敵の手に落ちたりしたら。
たとえ不穏分子だろうと、おめおめと引き返しては来られないだろう。
将不在の影響で壊滅状態となるか、仇討と称して反撃するか。
どちらにしても、無傷では済まない。
だからといって何もせずに戻ってくれば、その時点で不忠の者として処罰されるだろう。
ああ、確かに『厄介な大掃除』だ。
「何でそんな……なんで、そんな!」
「国と王家の安泰のためには、確かに一石二鳥だ。王太子がお生まれになって無聊の時を重ねても、今回連れて行ったやつらにそそのかされても、殿下は自分の宝石を変えることも手放すこともなかった。陛下のこととは別に王家を大切に思っていたし、継承にかかわりはなくても自分も王族だと、言っていた。……何度止めても、止まらなかったのだよ」
だから、お前を送り込んだ。
辰砂さまはそういって俺に頭を下げた。
つらい思いをさせてすまない、と。
俺が、あなたを守る場所に行きたいと、そう願ったのを知っていたのに。
あなたの願いをかなえたいと、そう、望んでいたのを知っていたのに。
「人のことをバカだバカだと言っていて、あの方が一番、バカじゃないですか」
握りしめた拳が震える。
本当にバカだ。
直すこともできない、大馬鹿だ。
もう、本当に直せないけれど。
バカだ、あなたは。
国境の戦況が王城に届き、あの人の仕事が終わったことを知る。
初夏のまぶしい光の中、アゲハチョウが舞っていた。
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