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アゲハチョウ 11
朝も明けきらぬ刻限。
温かいはずの寝台に、すうと、冷たい空気が入って、俺はぼんやりと目を開ける。
一晩中、ずっと俺を腕に抱いていた人が寝台を降りたのだ。
なめらかで均整の取れた、美しい身体。
ところどころに散る赤い花。
あの方は国王陛下のもので、俺はあの方のものになった。
殿下は迷うことのない手つきで衣を身に着けて、太刀を佩く。
「……殿下?」
その動きをぼんやりとみていたけれど、その段になって違和感に気が付いた。
軽装とはいえ、戦装束。
掠れた俺の声を聞きとめて、殿下が枕元へと腰を掛ける。
「すまぬ。無理をさせたな」
「いいえ、望んだことです」
「まだしばらくここにいるがいい。動かねばまずい刻限になる前に、辰砂をよこそう」
「殿下、そのお姿は?」
「気にするな。少々厄介な大掃除に行ってくるだけだ」
俺の目をその手で閉じて、額に唇を寄せる。
「お前は変わらぬな」
「殿下?」
「そのまま健やかにいておくれ」
「俺はもう、子供ではありません」
「バカだな。お前が本当に子供なら手は出さぬ……今しばし眠っていろ。慣れないことを強いて、体に負担がかかっているだろう」
「殿下こそ……あの……お疲れなのでは」
「一晩で二人を相手にして、か? 少々疲れてはいるが、さほど無理はしていないのでな」
くすくすとこぼれる声と、優しい唇とさらりと落ちてくる髪。
俺はそのまま眠りへと落とされた。
夢の中で、蝶が水辺に舞っていた。
あの方はわかっていて、俺に無理をさせ。
わかっていて、俺を眠らせていた。
俺の目が覚めたのは、全てが手遅れになってから。
動くことのできない俺に身支度をさせ、離宮から私室へと運んだのは辰砂さま。
その途中で、きな臭かった国境への進軍を知った。
進軍の旗印に、王弟殿下が立ったことも。
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