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よもつひらさか 9

大きな声が聞こえていたのは覚えている。 激しい衝撃に襲われたのも。 陛下の御幸の護衛で、落石事故に巻き込まれた。 岩が落ちてきた瞬間に、かさねが俺を振り落したのだと、現場にいた同僚が言っていた。 完全に岩に埋まってしまって、発見されるまでに時間がかかったそうだけれど、俺の身体は岩とかさねの間の隙間に守られていたそうで、事故の大きさの割に軽傷なのだという。 左腕とろっ骨の骨折。 右の額の上はざっくりと切れていた。 けれど、大きな怪我はそれだけで、発見さえされれば、命に別状はなかった。 施療院に担ぎ込まれて、今日で十日。 最初の七日間、俺は眠り続けていたらしく、記憶はすっぱり抜けている。 「あの事故に巻き込まれてこれならば、運の良い方だろうさ」 苦虫を噛んだ顔で、辰砂さまが言い捨てた。 「かさねのおかげです」 「確かにそうだ。あれは、いい馬だったな……惜しいことだ」 「はい」 かさねは、俺を守るような体勢で、息絶えていたのだという。 「お前は、難しい奴ほどよく手懐ける」 「そうでしょうか?」 「自覚がないのか? 得な性分だ」 「はあ」 見舞いに来てねぎらうどころか好き放題に言っている辰砂さまがには、きっとたいそう心配をかけてしまったのだろうと思う。 俺は意識がなかったままなので、実際どうだったのかは知らないけれど。 「憑き物が落ちたような顔をしているな」 くいっと俺の顔を人差し指で持ち上げ、自分の方に向かせて、辰砂さまはしげしげと俺の顔を眺める。 「はい?」 「本宮隊に引っ張ってきてから、ふさいでいたようだったが……」 「ご心配をおかけしました」 「なに、戻った時にきりきりと働いてくれればそれでいいさ」 笑っていた辰砂さまが、指を滑らせて、つん、と俺の首をつついた。 「なんですか?」 「紛らわしいところに、紛らわしい雰囲気の打ち身ができている」 「はあ……そうなんですか?」 「からかうにもお前にそんな要素がさっぱりないのは、よく知っているからなぁ」 そう言う辰砂さまを見ていて、ぽかりと、言葉が浮かんだ。 「よもつへぐい」 「ん?」 「よもつへぐい……って、ご存知ですか?」 「死者の国ものを口にしてしまうと、この世に戻れなくなるというやつか? それがどうした?」 「いえ。ふと、思い浮かんだもので」 よもつへぐいになってはいけないから、ここから先はお預けだ 聞けるはずのない声で、聞いた記憶のない言葉が、よみがえる。 けれど。 もしも意識のない間に、俺が死者の国でさまよってしまったのだとしたら、きっとこちらへ押し戻してくださったのはあの方だから。 俺は、いきています。 これからも、いきます。 あなたが守りたかったものを、守ります。 槻代さま。 <end>

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