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1.ファーストキス

きっかけは瑛良(あきら)の一言から。 「なぁ、蒼空(あおい)ってキスした事ある?」 「はぁ?ちょっ、えっ?な、何言ってんだ?えっと、待て。キスって魚編になんて書くんだっけ?」 「いや、蒼空瑛良は別に魚の話をした訳ではないぞ。鱚は魚編に喜ぶだが」 「ありがとう燈夜(とうや)。で、なんで突然その質問?」 「ああ、今日野球部でさ、聞かれたんだよな。お前キスした事あんの?ってさ」 「今日は野球部か。毎日忙しいな、お前は。で、なんて答えたんだ?」 「勿論ないって答えた」 「素直だなぁ~瑛良は。そこは見栄張ってあるぜ位言っとけば良かったのに」 「いやぁ、変にカッコつけて後でバレたらハズイしな。で、素直に答えたらさぁ、なんかおこちゃま扱いされた」 「あ~ウチの野球部イケメン多いから仕方ないよ」 「そうだけど、なんかさぁ、スッゲェ凹んだ。どうやら野球部の人達全員彼女持ちらしくてさ、色々経験豊富なんだって」 「安心しろ瑛良。俺達はまだ高1だ。早い奴はもう色々経験済だが、別に俺達が遅れている訳ではない。特に好きじゃない奴に適当に青春捧げて失敗して妊娠させてアタフタするよりかは遥かにマシだ」 「正論だけどなんかもっとオブラートに包むかマシな言い方はないのかよ燈夜」 「そうか?」 瑛良の一言から始まった変な論争。 グダグダ話して分かった事だが、どうやら俺達は3人共キスの経験がないらしい。 まぁ、暇さえあらば集まって遊んでるし今はまだ恋愛より友情の方が楽しい時期だしな。 それに俺多分彼女出来ても友情優先するし、それじゃあもし運良く彼女出来ても長続きしないと思う。 まぁ、まだ出来た事さえないし、初恋もまだだけどさ。 「なんかさぁ、キスってスッゲェ気持ち良いらしいぜ?」 「へぇ~」 「ん~?他人の唾液とか汚くて萎えね?」 「は?」 「え?」 「何言ってんだ?燈夜。キスする時んな事考えねぇよ」 「俺は嫌だね。あんなテカテカした唇と自分の唇合わせるのも無理だし、アイツ等厚化粧過ぎ」 アイツ等とは多分ウチの学校の女の子達の事だろう。 ウチは他校よりかなり校則緩いからか、女子は殆ど化粧してるし、制服のスカートも有り得ない位ミニだったり逆に長かったり、アクセ着けてたりと皆自由なのだ。 まぁ、男子も何人か私服だったり、着崩してたり、大量にアクセ着けてたり髪弄ってたりもしてるが、俺達は風紀や先生に目ぇ付けられるのが面倒で比較的大人しくしているつもり。 俺事、凪楽蒼空(なぎら あおい)は成績も運動神経も普通の何処にでもいそうな平凡な人間だ。 が、一つだけ平凡じゃない事がある。 それはイケメン過ぎる親友が二人も居る事だ。 一人は燈夜事、御厨燈夜(みくりや とうや)。 頭が良くて常に学年1位をキープしている眼鏡を掛けたインテリイケメン。 愛想振り撒くのが面倒だからと俺と瑛良の前以外では笑いもしない。 女子にはポーカーフェイスでクールとか言われているが、俺達の前ではメッチャ普通の奴だぞ? 二人目は瑛良事、東雲瑛良(しののめ あきら)。 勉強は俺より出来ないが、運動能力が有り得ない位高く、なんでも器用にこなしてしまう。 汗が似合う爽やか男前イケメン瑛良は、女子にはモテて男子には尊敬されているスッゲェ人気者だ。 一部の男子にはアニキって慕われているが、俺と二人っきりの時は有り得ない位甘えたで大型わんこだぞ? とまぁ、平凡な俺には羨ましい限りの二人だが、別に羨みはしない。 だって人は人、俺は俺だろ? どんなに頑張っても頭脳では燈夜に、運動面では瑛良に勝てやしないし、別に勝ちたいとも思わない。 まぁ、勝負とかして負けたら悔しいが。 「なぁ、燈夜は気になんねぇの?キスの感触」 「う~ん?ただ口と口くっ付けるだけだろ?別に何も感じねぇんじゃないの?」 「う~ん。俺は気になるな。そうだ、試してみねぇ?」 「はぁ?」 え?二人がキスすんのか? 親友同士のキスとかスッゲェドキドキすんな。 興味津々に目をキラキラさせてたら 「!?」 イケメン過ぎる瑛良の顔がボヤけて見えた。 ん? なんだコレ? は? なんで俺瑛良とキスしてんだ? え? キスって瑛良と燈夜がするんじゃなかったのか? 別に二人がイチャイチャしてもヤキモチ妬いたりしないからさぁ、俺の事は気にせず変に気ぃ回したりして先にキスしなくても良いんだが。 まぁ、過剰な位イチャイチャしたら少しは妬くかもしんねぇけど。 って、ちょっと。 「んっ、ぁ」 瑛良さん? 「ふ、んん、っ」 あの~、ちょっと、いや、かなり長過ぎませんか?キス。 俺初めてだから変な声とか出ちゃうんですが。 ちょっと恥ずかしいからそろそろ止めてくれません? チュッ。 可愛らしいリップ音と共に漸く解放された俺の唇。 長々とされてたけど、ふやけてないよな? 無事か?俺の口。 「で、どうだった?」 って、おい。何普通に聞いてんだ燈夜。 「最高!メッチャ柔らかかったし、気持ち良かった」 だぁ~かぁ~らぁ~、なんで普通に答えてんだよ瑛良。 「そうか」 ん? って、ちょっ、なんか近くないか?燈夜。 何腰に手ぇ回してんだ? ちょっ、は?待て。 お前何考えて。 「んんん!???」 ……………。 なんか俺汚された。 「確かに気持ち良いな」 「だろ?」 楽しそうに盛り上がる二人を横目に 「またしような、蒼空」 「蒼空とだったら気持ち悪くないし、悪くないな。これからも頼むわぁ」 俺は 「はぁあぁあ~???」 ガックリ肩を落とした。

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