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2018年9月26日-1

 秋の長雨が、3日ほど降り続いていた。薄黒い雨雲から、しとしとと落ちてくる雨粒は、ネオンサインの毒々しい明かりで彩られる渋谷の街を、ぼんやりと滲ませていた。  9月26日、水曜日の今夜は、雨の影響でやや肌寒く、薄手の長袖服を着てちょうど良いくらいだった。来週からはさらに涼しくなるらしい。秋物のジャケットを着て外出する日が増えるだろう。  JR渋谷駅のハチ公口から北に6分ほど、住所でいうと宇田川町あたりだろうか。近くには東急ハンズがある。道玄坂のゲイバーで声をかけたり、かけられたりすると、決まってこのホテルにしけ込んでいた。 3階のエレベーターを降りてすぐの部屋だった。久我(くが) (たける)はダブルベッドの上で乱れた呼吸を整えながら、組み敷いていた男から身を離し、その隣にごろんと寝転がった。鳩尾辺りに汗ばんだ右手をおけば、そこも汗で濡れていた。  橙色の照明が灯る部屋は、壁も天井も白一色だった。照明の色に染まった天井をぼうっと見つめているうちに、呼吸が落ち着いてくる。  となりの男は、いまだ荒い息遣いを繰り返しながら、掠れた嬌声をぽろぽろと溢していた。  やがて、汗みずくの身体を気だるげにこちらに向けると、濃厚な色気を孕んだ笑みを浮かべ、薄赤く染まった唇を動かす。 「……すごく良かった」  そして、やわく垂れたまなじりを糸のように細める。 「こんなに気持ちいいセックス、生まれて初めてだ」  リップサービスだと思った。そこらにいる風俗嬢が、客を満足させるために囁くそれと一緒だ。鼻で笑い、「そりゃあ良かったな」と返してから、岳も男の方に身体を向けた。  その顔をじっくりと見つめる。……名前は忘れたが、ドラマや映画によく出ている俳優に似ていた。若手と中堅の狭間にいて、どんな役も器用にこなすと言われ褒めそやされていたのを、いつかのテレビ番組で見た覚えがある。  目鼻立ちが整った卵型の顔には、甘さと艶っぽさが色濃く漂っていた。大ぶりで形の良いアーモンドを少しだけハの字に傾けたような目に、(あで)やかなツヤを帯びた焦茶色の瞳、すっきりと整えられた眉。鼻筋はくっきりと通っており、シャープな鼻先は日本人らしくなかった。血色のいい唇はふっくらとしており、どちらかと言えば色白の肌に程よく映えていた。  甘いマスクという表現がぴったりの青年は、今年で三十路になったという。岳より3つ、歳上だ。  けれども、緩いウェーブパーマをかけたツーブロックの黒髪がセックスで乱れ、ワックスか何かで掻きあげた長めの前髪が額のほとんどを覆っている今、少しだけ幼く見えた。

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