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初めての初詣11

 駅に戻ると電車が到着していたらしい。階段を降りていく人とすれ違った。  まこは股間を気にするせいで不自然な格好をしながら、急いでトイレに向かっている。 「トイレどこだっけ? 俺あんまこの駅来たことないっけ、わからん」 「新幹線改札口の反対側だよ。こっち」  まこの袖をチョンと引っ張って、違う向きに向おうとするまこを引き止めた。  駅の端にあるトイレは、電車が到着したばかりにしては案外ひと気がなくシンと静まりかえっていた。  まこは個室に一人で入り、がさごそとパンツを脱いでいる。 「善、悪い、財布渡すっけコンビニでなんか買ってきて。パンツ入れる袋が欲しいが」  トイレの上の隙間から、ぽんと財布が降ってくる。 「精液がついたパンツ、ポッケに入れるわけにもいかないもんね。わかった。そうだ、パンツはいる?」 「パンツはいらないや。どうせ穿かんくなるし、もったいない。あ、ウエットシートが欲しいな。ベタベタして気持ち悪いっけ」 「了解、じゃあ行ってくるね」  コンビニから帰ってまこにウエットシートを渡すと、しばらくしてまこが個室から出てきた。  今ノーパンなのか、エロいな……なんて思っていると、まこにボスっと腕を殴られる。 「暴力反対。よくないよ、すぐに手が出るの」 「善が変なこと考えてる顔してたっけ、しょうがないろ。自分のせい」  まこはダウンの袖を少しまくると、パンツをじゃぶじゃぶ洗い出した。むくむく湧いてくる下心をそっとしまい込む。また殴られたくないし。  そんな時、ぶっと個室からおならのような音がした。  慌てて振り返ると、個室の一つに人が入ってることを知らせる赤いマークがついている。  まこの顔がさっと青くなった。 「え、人いたがーか」  俺のスマートフォンから音がした。こんな時にタイミングが悪いな。画面を確認すると須藤だった。無視すると再度かかってくる。  固まってるまこの手からパンツを受けとり、代わりにしぼった。袋の中に入れると、我にかえったまこがその袋をダウンのポケットにしまい込む。  慌ててその場をあとにしたら、また須藤から電話がかかってきた。  少し場所を離れてから仕方なくでる。 「もしもし、ぼく、須藤くん。さっきお前らの後ろにいたの」  どこかのメリーさんに負けないくらい怖い声がした。  お腹を落ちつけるから待ってろ、と言われ十数分後。  構内の木製のベンチに靴を脱いで正座させられると、ありがたい小声が降ってきた。 「精液がどうのこうの、バカなの? 公共の場で何してたが? ばぁちゃんに家を追い出されて、トイレにこもってる暇もなかったっけ、やっとトイレにたどり着いたー!と思ったらアホみたいな会話聞かされて、出るに出れないし、最悪ながーけど」  須藤は、寒さか恥ずかしさかわからないけど震えるまこに、バシッとホッカイロを投げてきた。 「いった、野球のピッチャーやってたがーに、本気で投げるのやめろて。ありがたく使うけどさぁ。さみいし」  まこはピリピリ封を破ると、ダウンの中に貼り付けた。 「もうないっけ、清水は自力であったまってろ」 「ん、ありがとう、俺は大丈夫」  須藤、まこにはちょっと甘いんだよなぁ。幼なじみだし、俺の知らない二人の間のことを思うと少し嫉妬したくなる。ダークモードに入りそうなので深くは考えないでおこう。  須藤はまこに向き直ると、声のトーンを一段下げて言った。 「学校にバレたら、下手すると停学になるっけ、家にまで連絡がいく。バレてまずいのは清水のほうなんだぞ。そこんとこわかってるが?」 「あんま考えてなかった。ごめん」  まこは俺に謝ると、神妙な面持ちで膝の上に置いていたこぶしを握った。  その日の夜のこと。ふと昼間の話になり、まこに言った。 「須藤って、けっこうまこには甘いよね。ちょっと嫉妬しちゃうな」 「嫉妬ってどっちに?」 「どっちとか考えてなかったけど、二人の関係に」 「そういうもんかな。けっこう善も大事にされてると思うけど。あの後、念押しでもう一回ライン来てたし」  うーん勝手に言うのはよくないかな、とまこはしばらく悩んで、まぁ別にいっかと言葉を続けた。 「〝俺のダチ大切にしなかったら許さんからな〟って。俺、愛の告白されてんのかと思っちゃった」  まこほどじゃなくても、意外と俺も大事にされているらしい。唯一の友達の言葉に胸の奥がじんとした。 ―END―

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