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お化け屋敷リポート

 俺はアイドルだ。  デビューしてまだ一年だけど、豪華な衣装を着て、マイクを握って、時には何百人何千人もの観客を前に日々の練習の成果である歌とダンスを完璧に披露する。  卑屈でネガティブな俺が、あれよあれよという間にキラキラした世界に飛び込んで一年とちょっと。  カメラの前に立つとガチガチに緊張して、まだほとんど俺発信のトークは出来ないけど、曲が掛かると謎のやる気スイッチが入るから今まで本番でミスをした事はない。  失敗が許されないこの世界は、恵まれ過ぎてる境遇のおかげで大きな困難は今のところ無く、ひたすら眩くて温かいんだ。  あがり症が災いして人前は未だに慣れない。 でも、何も取り柄がないと思っていた俺は歌う事も踊る事も大好きで、楽しさとやり甲斐を日々感じ始めている。  俺は二人組アイドルユニット、『ETOILE(エトワール)』の葉璃(ハル)だ。 ……そう、アイドルだ。  ……アイドルの、はず……。 「なんでこの時期なんですか……? ホラー映画は好きだけどお化け屋敷なんて……いま冬ですよね? お化け屋敷って夏に流行ってたんじゃないんですか? 時代が変わったんですか?」  ロケバスでの待機中、トナカイのコスプレをさせられた俺は、往生際悪く着ぐるみの袖をモゾモゾさせながらぼやく。  すると、俺達ETOILEのお兄さんグループ『CROWN』のリーダー、聖南(セナ)がニヤッと八重歯を見せた。 「クリスマスのこの時期はな、否が応でもカップルのイチャイチャ熱が上がるだろ。 たいして怖くねぇのにキャーッつって騒いで、恋人にしがみついて、ついでに体感温度もキンキン。 寄り添い合うしかない美味しいシチュエーションじゃん」 「……そういう戦略ですか……」  だからってなんで、俺達がお化け屋敷体験しなきゃなんないの。  今日はこれから、この時期には珍しい、ショッピングモールに特設された話題のお化け屋敷をリポートするんだって。  それは仕事だからまだいい。  三人組アイドルグループCROWNとその後輩である俺達ETOILEが駆り出されたのも、話題作りと大きな宣伝になるからって事だから、百歩譲っていいとしよう。  でも、でも、打ち合わせ時にディレクターの人から言われた台詞が引っ掛かる。 『ハルくん、いいリアクション頼むよ!』  ───え、俺が……リアクション?  血相変えてギャー!って叫んだり、我を忘れてお化け屋敷内を走り回ったり、そういう事?  リポートするだけじゃなく、お笑い芸人さんみたいなリアクションを求められた俺は、聖南を不安気に見た。 「俺そんな……スタッフさん達が喜ぶようなリアクションなんて出来ないです……」 「いや、俺は期待してる。 俺しか知らねぇ葉璃が世に出ると思うとすげぇイヤだけど、めちゃくちゃ楽しみでもある」  ぼやき続ける俺に視線を投げる聖南は、それこそこの話が来た時からご機嫌で、今も隣の席で終始ニヤニヤしている。  聖南は赤いサンタのコスチュームを着て、今風の整った顔立ちの上にはサンタ帽子。 何を着ても様になるモデルさんも兼ねてる聖南が、似合わないはずがない。  今日はあんまり俺の気持ちを分かってくれなさそうなヤンチャな笑顔に、はぁ、と一度溜め息を吐いた俺は後ろを振り返った。  談笑中のCROWNのメンバー、アキラさんとケイタさん、ETOILEのもう一人のメンバーである恭也(俺の大親友!)、俺以外の全員が聖南と同じサンタのコスチュームだ。  ───これもおかしな話だよ。 なんで俺だけトナカイの着ぐるみなの?  ご丁寧にトナカイの角カチューシャまで付けられて、もふもふした素材の着ぐるみは暖かくていいんだけど……俺もサンタが良かった。  身長が高くないとサンタは着れないのかな。 やっぱり俺も、みんなくらいとは言わないからもう少し背が欲しかった。  ……って、こんな事を聖南の前で言っちゃうと、「葉璃はそのサイズがいいんだよ! トナカイかわいーじゃん! 似合ってるからその着ぐるみ持って帰ろ!」なんて、一言一句違わずみんなの前で堂々と言い放つに決まってる。  俺とは真逆の社交性の塊である聖南は、芸能界の大先輩。  作詞作曲にプロデュース業までこなし、歌と踊りの才能も未知数で、そして何より……。  世間には絶対に知られてはいけない、俺の恋人だ。

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