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のどあめの効果はありません⑤※

「……せな、さん……怒っていい?」 「なんで怒るんだよ。 あ、おいっ、締めんなよ!」 「んぁあっ……ちょっ……! 急に動かないで……っ」 「怒られる意味が分かんねぇ」 「あぁぁっ、んんっ……ん、っ……!」  真っ直ぐ過ぎる邪な狙いを聞いた俺が、キュンキュンを返して!と聖南を睨むと、意図せず怒りが内側にも伝ってしまった。  そのせいで獣に火を付けてしまい、下からぐちゅぐちゅと粘膜音を響かせながら激しく挿抜された。  擦れられる襞と性器の先端は、もはや意識しなくても互いのいいところを摩擦しようと腰が動く。  突き上げられて揺れる俺の小ぶりな性器から、二、三回に分けて白濁液を漏らしたけどいつその時が来たのか分からなかった。  甘いにおいが立ち込める室内には大きなツリー。 外からは月が、すぐそばからも俺達の蜜月を凝視されてるようで異様に興奮した。  掠れた声で啼く俺の喉に、しきりに口付けてくる甘い唇もさらなる興奮を煽った。  いつも寛いでる、俺のお気に入りの場所であるコーナーソファの角の背凭れに、聖南がもたれ掛かっている。  呼吸も乱さず俺を絶えず貫いているヤンチャな獣が、ふとスプーンを手に取った。 「最後の一口。 ……治るといいな」 「……っんや…っ、チョコ、……も、いらな……っ」 「残さず飲めよ」 「んむぅ……っ、……!」  チョコを口に含んだ聖南から、唾液と一緒にそれが送り込まれる。  絡み合う舌が俺の唾液も持っていき、掴まれた腰に力が入った事で意識がそちらへ傾いた。 「んっ……ふっ、っ、……っ……んん──!」  ……飲み干せなかった。 容赦ない下からの突き上げが嚥下の邪魔をして、悲しくもないのに涙が溢れてくる。  息を詰めた聖南から背中を強く抱かれて、じわ…と中に伝わる温かい熱に瞳を閉じた。  聖南の胸に顔を埋めて酸素を欲していると、すかさずおかわりのキスを求められて応える。 「しばらく甘いものは要らないんじゃね?」 「……はぁ…はぁ……っ、チョコ限定で……」 「だろうな。 どう? 喉は」 「…………治ってないです、むしろもっと痛くなったかも……」  会話してる声なんてさっきよりガサガサなのに、なんで治ると信じてるんだろう。  繋がったまま離れない聖南は、俺の髪を優しく撫でて心の底から不思議そうに「マジかよ」と呟く。 「おかしいなー。 効果あると思ったんだけど」 「〜〜〜っ、チョコレートフォンデュにのどあめの効果はありません!!」  叫び過ぎ、喋り過ぎ、喘ぎ過ぎのトリプルコンボで喉がイガイガしてたけど、叫ばずにはいられなかった。  その拍子にまた力が入っちゃって獣を蘇らせてしまった俺は、一晩中チョコの甘い香りに惑わされてより一層声を枯らす。  チョコレートフォンデュよりも、俺の喉を労るように何度も口付ける聖南の唇の方が、効果がありそうだ。  不埒なクリスマスを計画していた聖南には、そんな事絶っっ対に言ってやらないけど。  … … …  翌朝、本物ののどあめを大量に買い込んだ聖南が俺を優しく起こしてくれた。  口移しでもらったのどあめは、爽やかなレモン味。  体中に纏っていたチョコのにおいが寝てる時でさえ記憶から離れてくれなかったけど、聖南が買ってきてくれたフルーツのどあめを全部食べきれば、爽快になれそうだ。 「俺だけが知ってれば良かったんだけどなー。 笑ってたけど複雑なんだぞ? 俺の葉璃がみんなを笑顔にさせて」  ベッドサイドに掛けた聖南が、腕を組んで昨日のお化け屋敷ロケを反芻し始めた。  複雑、なんて言葉、とても信じられない。 「聖南さん率先して笑ってましたよ!」 「さっき電話して、編集終わったらデータ貰う約束までしたぜ。 しかも編集前のフルバージョン」 「嫌だー! 貰ってきてもこっそり探し出してデータ消します! 俺にはその権利がありますよねっ?」 「……あるけど無えよ。 葉璃の物は俺の物、俺の物は俺と葉璃二人の物」 「えっ……聖南さんいつからジャイ○ンになったんですか?」 「誰だよその外人。 名前ゴツいな」 「……彼は純日本人ですよ、聖南さん……」  国民的アニメを知らないらしいアイドル様は、「へぇ」と意味もなく笑った。  その顔に見惚れてほっぺたを熱くする俺の甘やかし具合も、相当なもんだと思う。 「アキラ達のデザート、いつ食べる?」 「今から頂きます!」 「それマジ? 俺ちょっと胃がもたれてんだけど……何でだ?」 「────知らない!」  ほら、やっぱり胸焼け起こしてる。  めろめろし過ぎたんだよ、聖南。  看病なんてしてあげないとあれだけ心に決めていたのに、ほとんど不調を訴える事のない聖南がお腹を擦ってる姿を見るとあまりに可哀想で、重たい体を起こして薬箱へと向かった。  後日、ほんとにデータを貰いに行った聖南は、トナカイとサンタのコスチュームが入った紙袋も一緒に持って帰ってきた。  その夜のエッチは、……言うまでもない。 のどあめの効果はありません【完】

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