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第1話

「ちょっとトイレ」 そう言って慎也が席を立つと、慎也の隣に座っていた芽依が突然ため息をつき、顔を覆った。芽依の横にいる由佳がそんな芽依の背中をさする。それを見ていた他の奴らは笑い出し、事情を把握できていない俺だけがポカンとしていた。 「(そら)、何でそんな顔してんの? お前まさか今の今まで何も気づいてなかった?」 からかうような表情を浮かべ俺にそう言う智彦に対して、何かあるのか? と聞く前に、視界に入ってきた芽依の真っ赤な顔。 「あー……」 慎也がいなくなってからの芽依と周りのこの反応に、聞かなくとも分かってしまった。芽依が俺にクリスマスパーティーに慎也を誘うように頼んで来たのも、由佳が慎也の隣に芽依を座らせたのも、智彦がプレゼント交換のクジは俺に任せろと自信ありげに言ったのも。 全部、芽依と慎也をくっつけるためのものだったんだ。 「そういうことね。今、分かったわ。ごめん、俺すっげぇ鈍いからさ」 ははっと乾いた笑いを一つこぼし、ひきつる口元をすぐに隠した。まさかの事態にその手が汗で濡れる。 今日に限ったことじゃあないと、これまでのことを思い出せば、お似合いの二人に視界が歪んだ。慎也に片想いできる立場でもないくせに、隣にいられることに安心していずれこういうことが起きるだなんて思ってもみなかった。 隣にいられるのは、親友としての俺であって、慎也に片想いしている俺じゃあないのに。

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