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第12話 『見えない獣の牙』④
「ねぇ、早く……」
恥ずかしい格好で誘ってるのに、相手は全然来ようとしない。焦れた僕は後ろを振り返った。
思いもかけない光景が、背後にあった。
「………ぁ………」
僕はお尻が疼くのも忘れ、言葉もなく目を見開いた。
僕の背後にいたのは、あのがっちりした醜い五十がらみの男なんかじゃなかった。
暗闇の木立の中で淡く燐光を放つ、世にも美しい白い若者だった。
月光にも似て玲瓏とした美貌。細面の顔に収まる二つの瞳は真紅で、眦が鋭く吊り上がっている。髪は歌舞伎のカツラみたいに真っ白でうんと長い。着物は絹らしい光沢があって、織り込まれた金糸銀糸が小さく輝く重厚な代物だった。
厳かであると同時に背筋が凍りつきそうな凄味もある。人の姿をとってはいたけど、明らかにこれは人外の存在だった。
その綺麗な顔に、皮肉げな笑みが浮かんだ。
『やれ、蛇のやつも余程腹が減ってか、凝りぬことよ。この千の許嫁に許しもなく手を出すとはな』
「千……?」
ひやりと冷たい手が、呆然とする僕の腰を掴んで引き寄せた。
『仕方ない。まずはその飢えた腹、満たしてやるとしよう』
ヒクつく入口に硬いものが押し当てられた。窄まったところを大きく拡げながら、それが押し込まれてくる。
「ぁ……あ・あ・あ……あ――――ッ……ッ!」
ミチミチと裂ける音がしそうなほど逞しいものが肉を割り開いて進んできた。思わず前に逃げようとする体を引き戻され、凶器のような怒張が容赦ない強さで身を貫いていく。
太くて硬い肉の棒が、まるで串刺しの杭のように僕の体を抉った。
「待っ……や、め、ッ……いや……だ、ぁ……あ――ッ!」
『そのようなちっぽけな言霊では、私には効かぬ』
振り絞った制止の言葉を、白い妖は鼻で嗤った。その冷たい響きが僕の背筋をぞくぞくと震わせる。恐ろしさが半分、残りの半分は声の響きに触発された官能のせいだ。
蛇の毒液と同じように、この声が鼓膜を震わせるとそれだけで腰の奥に快感が走る。――これは、魔性の声だ。
「あ……あ……あ!……」
全身をぶるぶると震わせながら、駆け上がってくる快感に耐える。
僕を啼かせながら一息に潜り込んできた肉棒は、下腹の奥の壁を突き上げた。
その衝撃に絶え入りそうな息をついて、僕は片手で下腹を押さえた。腹の奥まで犯されて、腸が破れてしまうんじゃないかと思うほど苦しい。息がまともに継げず、お腹の奥が捩じれそうだ。なのに凶器の先端は、その腸壁を破らんばかりに尚も強く押し上げてくる。
「や……め、て……もう、無理だ……」
ゆさゆさと小刻みに揺らしながら奥を押してくる動きに、僕は怯えて啜り泣いた。
もうこれ以上は無理だ。これ以上奥に押し込まれたら、お腹が破れてしまう。死んでしまう。……必死で言い募るのに、腰を掴んだ手は万力のように緩まず、奥を押す動きも止まない。
「無理だ……もう挿らないよ……挿らない……ッ!」
『おなごでもあるまいに、挿らぬはずがあるものか。……そら!』
「ぅ、ぁあああッ……ッ!」
バツン!と音を立てるような衝撃とともに、怒張の先端がひときわ深く入ってきた。狭くなった部分を強引に押し広げて、本来異物が遡ってくるはずもない奥の奥まで。
鳩尾の辺りまで届いてるんじゃないかと思うほど、怖いぐらい奥まで挿ってる。声も出せずにはくはくと喘ぐ僕は、お尻に当たるひやりとした着物の感触に、凶器がやっと根元まで納められたことを知った。
「う……ご、かな、いで……」
脂汗が滲みそうなほどの鈍痛がお腹の奥にあった。実際全身汗まみれだ。
体に力が入らなくなった僕は、地面に突っ伏して呻くように懇願した。
お腹が破れそうなくらい苦しい。息もできない。絶え絶えにそう訴えているのに、そこをさらに拡げようと肉の杭が揺さぶってくる。僕を串刺しにして嬲り殺す気なのか。
恐ろしさにしゃくりあげたけど、異形の美丈夫は憐れむ様子もなく淡々と言ってのけた。
『動かねば、種がつけられぬ』
自明の事を言わせるなと言わんばかりの突き放した言葉とともに、彼は動き始めた。
「やッ!……ぅううう――――ぁああッッ!」
内壁を引きずり出すようにして、いっぱいまで埋まっていた杭が抜けた。
圧迫感が和らいだと思う暇さえなく、凶器はすぐにまた肉を拡げて入ってくる。僕は絶望の声を上げた。硬く太い怒張が肉の襞を掻き分けて奥まで貫き、雁に襞をひっかけて揺らしながら出ていく。何度も、何度も。
一突きされるごとに僕の喉からは獣じみた呻きが漏れるのに、妖の男はそれにも構わず思いのままに突き上げる。死ぬ……殺される……。
「オ……ォ、オッ、オッ……もォ、死ぬ……ッ」
『死ぬものか。ここをこんなに勃たせておいて、よくもそのような戯言を』
鼓膜を擽る低い冷笑とともに、ひやりとした指が僕のペニスに絡んだ。
「あ……」
指が触れると、チュプと濡れた音がした。冷たい指先に先っぽを弄られると、おしっこを漏らしたみたいにトロ……と蜜が零れ落ちた。
「あ……ぁひ……」
長い指にそこをゆるゆると撫でられると、腹の奥から痺れるような重苦しい快感が押し寄せてきた。今の今まで苦痛だとしか思っていなかった感覚が、苦しいほどの快楽と一体なのだと教えられた、その途端。僕は箍が外れたように、あられもない声で叫び出した。
「ひ、ひあぁ!……ぁあ――! あひぃぃいいッ!……ッ」
クックッ、と喉の奥で笑う声が一層官能を呼び覚ましていく。
長い逸物に閉じた場所を抉じ開けられ、腹の奥の奥まで犯されるのが、死にそうなほど苦しくて気持ちいい。
行き止まりのその奥まで突き上げられると、総毛立つような震えと痺れが背筋から頭頂まで走り抜ける。結腸の襞を揺らしながら抜けていくと、腰から下が蕩けて崩れた。前立腺の裏を擦られて、あまりの気持ちよさにお尻を振れば、揺れて下腹を打つ僕のペニスからは蜜が飛び散る。揺れた亀頭が下腹を叩くたびに、その振動がお腹の奥まで伝わって雄たけびを上げそうになる。
あ、あ……。どうして嫌だなんて思ったんだろう。こんなに気持ちいいのに……。
もっと……もっとして……。
男の動きに合わせて自分からお尻を振る。飛び散った蜜のせいで、着物にぶつかる僕の尻たぶが粘着質な音を立てた。
『好うなってきたか……?』
低く問う声が耳の奥を犯す。それだけで潮を吹いたみたいにペニスから粘液が溢れた。僕は突っ伏したままガクガクと頷いた。
苦しいけれど、気持ちいい。今まで味わったことがないくらい気持ちいい。もう気を失ってしまいそう。でももっと苛めてほしい。もっともっと、入口も奥も責めて気持ちよくして。
僕はしゃくりあげながら正直に告げた。
『よいぞ。ならば種をつけてやろう』
その言葉とともに腰が強く掴み直され、背後からの動きが急に激しさを増した。
「ぅ、あ、あ、あッ、ッ!……!」
容赦ない酷い仕打ちだと思っていたけど、これでも今まで手加減されていたんだ。
太くて硬い凶器が、絡みつく肉を振りほどくように荒々しく奥まで打ち込まれる。ズンッ!と体の奥を突かれたと思うと、音がするほど激しく襞を捲り上げて出ていく。濡れた穴に棒を突っ込んで掻き回すような、淫らな音が続けざまに耳を犯した。
鳩尾まで響く激しい結腸責めは、ついに僕から理性を奪った。
「い、い、い、……ああ! あ! イクぅ!……い、くぅ――ッ……ッ!」
発情期の獣みたいに、僕は大声で啼いた。夜の神社に、僕の善がり声がこだまする。誰かに聞かれたらと思いはするけど、叫ばずにはいられない。すごいんだ……。お尻の奥がすごくて、勝手に声が出てしまう。
こんな……こんな深くて激しい感覚は初めてだ。ただのドライとも全然違う。もう、ずっとイッてるのに、まだどんどん昇り詰めていくんだ。震えの走る場所から、自分が自分でなくなっていくみたいだ。
体の奥底から、何かが目覚める気配がした。体が内側から弾け飛んで、奥深くで眠っていた別の何かが頭をもたげるような、そんな感じがする――――!
「あ――――ッ!……ぅあ、ぁあ――――ッ……ッ!」
後ろから貫く凶器に呼応するように、腹の底の方で息を潜めていた蛇体までもが蠢き始めた。僕にはもう狂ったように叫ぶことしかできない。
内からと外からと、両方から開かれる。ああ! 僕の体が、僕じゃないものになってしまう……! 僕は……!
『……二度と、逃さぬ』
呻くような低い声とともに、体の内側で肉の凶器が膨れ上がった。
「ひぃっ……!」
腹の奥に、熱い奔流がドッと溢れ返った。同時に、深々と体内に埋まった凶器の根元が、瘤のように大きくなった。
中を拡げられる苦しさにもがいた時にはもう遅かった。
怒張の根元にできた瘤が、体の中で完全に張り切って膨れ上がり、栓をされた状態になって抜けない。異形の男の射精はまだ続いていて、僕のお腹の中はどんどん重くなっていく。
断続的に大量の浣腸をされているような、捩じれるような痛みがある。息も吸えないくらいの苦しさと、垂れ流しのようにずっとイキ続けているような気持ちよさも。
逃れようと足掻けば根瘤が前立腺を内側から押して、気持ちいい……苦しい……。
お腹が痛い、でも気持ち、いい……。いく、また、い、く……!
『……なんと強い力よ。これが千狐の許嫁か……』
体の奥で、蛇神が歓喜の声をあげて身をくねらせた。
僕の体内に止め処もなく吐き出される精は、まるで霊力の塊だった。蛇神は思うさまそれを貪り、長年の飢えを満たそうとのたうち回る。半ば具現化し、半ば霊体のままの蛇に暴れられるのはつらかったけど、吐き出された精を喰らってくれたおかげでお腹が破れずに済んだ。
まだ続く長い吐精は、下腹がずしりとくるほど大量だ。蛇が飲み損ねた分は拡散し、霊気が僕の体の隅々まで行き渡った。
体の内側からこの男の色に染め変えられるような気がする。全身からこの妖の霊力の匂いがするんだ。野生の雄にマーキングされたように。
実際、これはそういう意味なんだろう。僕が、この妖の所有物なんだと知らしめるための行為。
「ぁあ……あ……」
地面に伏せた僕の背中に、大きな体が覆い被さって抱き締める。ひやりとした衣の感触と、その内側にある逞しい肉体が感じとれた。大人と子供みたいに、僕の体はすっぽりと包み込まれる。
力強い手が僕の顎を掴んで、後ろを振り向かせた。
目の前にあったのは、磁器のような白く滑らかな面に、一対の真紅の瞳。その血の色の赤は、人間には持ち得ない神秘的な深さを持っていた。
蛇神が彼を千狐と呼んでいたし、きっと狐の眷属なんだ。目元にそんな雰囲気があった。果たして彼は稲荷明神の化身なのか。それとも千年を経た凶悪な妖狐なんだろうか。
千狐は僕と目が合うと赤い目を細め、口の両端を吊り上げて少し邪悪に笑った。
『隠れ鬼は、これで終いじゃ』
唇の両端から零れたのは、鋭く尖った白い牙だった。
幼い頃から何度も何度も現れた、見間違えようもないその牙。不意に、言い知れない寒気が背中を走った。
僕は突然理解した。――――今まで、この牙は守ってくれていたわけじゃない。僕は幼い頃からずっと、この牙の主に追われ、見張られていたんだ。
千狐と呼ばれる、この白い妖狐に。
この夜を境に、僕の人生は一変した。
千狐は僕を許嫁と呼んだけど、しばらくして僕はその意味を知ることになる。聞いた時にはかなりショックを受けたけど、今はもう平気。だって、受け入れるしかなかったから。
少し疲れたから、その話は次の時にしよう。――――じゃあ、また。
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