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第11話 『見えない獣の牙』③
それから数日、蛇神は静かだった。
据付のクローゼットに仕舞っておいた置物の方も、まるで魂が抜け出たように精気がなくなり、ただの石の置物になってしまっていた。体の中からは声も気配もなく、呼びかけに返事もない。
消えてしまったのか、それとも存在を明らかにできないくらいに弱り切ってしまったのか。あまりの応答のなさに僕は寂しさを覚えた。
あんなに疎ましかったのに、突然気配を感じなくなるととても寂しく物足りない。友達を失ってしまったかのようだ。
もし今度出てきたら、もう少しくらいは優しく接してみよう。赤の他人とどうこうなるのはごめんだけど、蛇神が具現化した時には嫌がらずに相手をしてやろう。
――――そんなことまで考えていた僕は、とんだ間抜けのお人よしだった。
そういえば蛇神がやってきた頃から、僕は極端に空腹を感じなくなった。
丸一日何も食べずにいても全然平気。喉は乾くけど、水さえ飲んでれば絶好調で、食事のことを思い出しもしないくらいだった。神様との同居で、体質が随分変わったみたいだ。
この日も僕は夜遅くなってから、僕は一日全く何も固形物を摂っていなかったことに気が付いた。気が付かなければよかったけど、気が付いてしまえば何か食べておかないといけないような気になる。
僕は近所のコンビニでお弁当を買った帰りに、近くの神社に寄ってみることにした。
ここは蛇の神様を祀る神社らしい。別にあの蛇神がここにいると思ったわけじゃないけど、神域に行けば蛇神が元気になるんじゃないかっていう素人考え。
これが最悪の選択だった。
「ン――ッ!……ンン――ッ!!」
夜の境内を歩いていた僕は、突然襲い掛かられて、暗い茂みの中に引き込まれた。
頼りない星明りの下でも、僕の目は相手が体格のいい五十がらみの中年男だってことが見える。その目つきが蛇神に操られてすっかりおかしくなっているのも分かった。
「ンンンッ……ッ」
やめろと叫びたいのに、真っ先に口を塞がれて言葉にならない。口を塞ぐ掌に思いっ切り噛みついたけど、びくともしなかった。痛みなんて感じてないみたいだ。
何とか両手で口を覆う手を引き剥がそうともがいていたら、急に下腹が重くなった。お尻の中でぞわりと何かが動く感触がした。
『――あぁ、腹が減った。たんと精を食わねば消えてしまう』
それは聞き慣れた蛇神の声だった。
『腹いっぱいになるまで食ろうてやるぞ。毒を注いでやるのはそれからよ』
疲れたような蛇神の声は無機質で、僕に対する気遣いは一欠片もなかった。
今さらながらに、僕は自分の浅はかさを呪った。なまじ会話ができるものだから、少しは気持ちが通じているような気がしていたんだ。――――でも違った。
これは五百年以上もの間、人間の精気を食らって存在し続けてきた異形の存在で、人間のような優しさや慈悲は端から持ち合わせてない。
僕のことなんて、腹を満たすための食料同然にしか考えていないんだ。
ぞっとしたけど、もう遅い。
白蛇と対等に渡り合うための唯一の武器である言霊を封じられてしまっていた。そして、目の前には操られた男がいて、僕の体の上にのしかかっている。
「ンン――ッ!」
逃れようと足掻くと、お尻の中を蛇が動いた。いや、お尻の中だけじゃない。お腹の奥の方までみっちりと蛇が詰まってる。そいつが鱗を擦れ合わせながらずるずる這いずると、気持ちいいのか気絶しそうなのかわからないくらいの感覚が、下腹をいっぱいに支配した。
「ン――……ン!、ンッ!」
ズボンと下着が剥ぎ取られ、夜露に濡れて冷たい草むらの上に剥き出しのお尻が落ちる。両足の間からずるりと這い出た白い大蛇が顔を見せ、高く伸びあがって僕を見下ろした。
『ここは我が眷属の治める社。狐如きに邪魔はさせぬ』
シャーッ、と大きく開いた口の中は真っ赤で、針のように鋭い毒牙だけが冴え冴えと白かった。
王子様にお尻の気持ちよさを教えられて以来、僕の体はすっかり淫らになってしまった。
以前にはどちらかと言えば淡白だったのに、この頃は一旦体に火が付くとそれを治めるのが難しい。行きつくところまで行かなきゃ我慢できない色狂いの体になっていた。
「ンッ、ンッ、ンッ……」
蛇神の胴が動くのに合わせて、腰が勝手に揺れ動く。
お尻の穴から蛇が出ているという、この異常な光景は、僕を襲った男には見えていないようだ。顎が潰れそうなほど僕の口を押さえつけて、もう片方の手は勃起した僕のペニスを扱いている。ズボンをずらした男の股間には、すっかり皮が剥けて上を向いた凶器が聳えていた。
オッサンのアレは、王子様のあの立派な逸物や、蛇の太くて長い胴体に比べれば、なんてことない大きさだ。
だけど黒くてちょっと歪な形をしたその醜さが嫌悪感を駆り立てる。物凄くイヤらしくて生々しい。正気だったら絶対相手になんかしない。なのに、こんな神社の草むらの中で今から犯されて、汚らしい精液を体の中にぶちまけられる。
冗談じゃない。そんなこと、あっていいはずがない。
嫌だ、嫌だと思ってるのに、蛇がずるずると出たり入ったりするから、お尻がおかしくなっちゃう。ペニスの先端からは蜜が零れて、臍の辺りがもう先走りでヌルヌルだ。
『身を任せてしまえ。お前も――――である以上、本性に逆らえるはずもない』
蛇はそう囁くと、僕の腹の中に体を潜り込ませた。
また中を蛇に犯されるんだと思ったのに、内側から擦られる刺激は急に途絶えた。ほっとするより早く、僕は高まった体を放置される焦燥感に身を焼いた。
口を開けたままの穴がヒクヒクと物欲しげに縮むのが自分でわかる。もう少しでドライの快感にどっぷり浸れるはずだったのに、突然突き放されて、火が付いた体が悲鳴を上げてる。
いやらしいチン〇が欲しい。中から前立腺をガンガン突かれて、お尻を振ってメスイキアクメしたい……。
僕は硬く目を閉じると、自分からお尻を持ち上げてオッサンのペニスに擦り付けた。顔から火が出そうなほど恥ずかしいけど、我慢できない。これが欲しい。このスケベなメス穴にぶち込んで、腰が立たなくなるくらいヒィヒィ言わせてほしいんだ。
「アッ……!」
濡れたオッサンのペニスをお尻で擦ってると、口を塞いでいた手とペニスを扱いていた手が離れた。逃げようとはもう思わなかったけど、有無を言わさぬ勢いでズボンと下着が剥ぎ取られた。靴も脱げて下だけ裸になった姿で、膝を開いて体を俯せにされ腰を掴まれる。犬の交尾の姿勢だ。
僕は地面に涎を垂らしながら、挿入しやすいようにお尻をぐっと突き出した。もう待ちきれない。
「……挿れて。僕のメス穴ぐちゃぐちゃにして。いっぱい中出しして……」
僕は下から入れた指でお尻の穴を拡げた。
早くこの中におじさんの反り返ってちょっと曲がったチン〇挿れて、中をゴリゴリ突いて僕をメスにしてよ。エロい蛇神が仕込んだ体だからきっと具合いいはずだ。おじさんのことも気持ちよくしてあげるから、遠慮なんてしないで。この中にいっぱい精液吐き出して、お尻から溢れるくらい中出しして……。
僕は誘惑するように男を振り返った。
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