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第10話 『見えない獣の牙』②

「ひぃ、んっ……!」  鱗を持った存在が僕の体の内側を擦っていく。  あっという間に前が窮屈になって、僕は慌ただしくズボンを下着ごとずり下げた。弾けるように飛び出してきたペニスを手に収めて、堪らずにそれを扱きたてる。  普段は霊的な存在として質量を持たない蛇神だけど、やろうと思えばこうやって蛇体の一部を具現化させ、内側から僕の体を犯すことができた。具現化するには相当体力を消耗するらしくて、そうしょっちゅうのことじゃないけど、一旦形をとったら僕が失神するまで根こそぎ搾り取っていく。  嫌なら霊力の高い人間を相手にしろと言ってくるけど、他人と何かするような面倒ごとはごめんだ。それならこうやって蛇神に犯されてるほうがまだまし……。 「あ……、ぁあっ、ひ……そんなに、動くな……っ」」  蛇の体がお尻の中を移動するたび、背骨をびりびりと走り抜けるような快感が湧き起こった。いつの間にか僕はすっかり後ろで感じることを覚えてしまっていて、そんなにゴリゴリされたらもうイッちゃうよ……。 『まだだ。そんなにあっさり出したのでは霊力が薄い』  だから、お前の都合ばかり聞いてられるか……て、アッ、嫌だ、お尻拡げないで……! 「やめ……!」  二つ折りになった蛇の胴体が、輪になった部分をお尻の穴から覗かせた。  僕が体を力ませるたびに、輪になった胴体が膨らんで、裂けそうなくらいお尻を拡げる。もう射精したいのに、ここを拡げられたらお腹に力が入らなくなって射精できなくなる。蛇神が許してくれるまで、ずっとずっとドライに入ったまま責められたら、頭がおかしくなっちゃうよ。 「やぁ……っ、イキたい、もうイキたいよ……!」  玄関先で、僕は色情狂みたいに下だけ裸になって悶え狂った。  お尻からは白蛇の胴体がはみ出て、輪になった形のままずるずると出たり入ったりしていた。手に握ったペニスからは精液の代わりに緩い我慢汁が溢れてる。  まだ玄関に鍵だってかけてないのに、こんなところを誰かに見られでもしたら……。  あ、あ、でもそんなこと気にかけてる場合じゃない。お尻から頭の芯まで、電流みたいなやつが怒涛のように駆け上ってきた。瞼の裏で、稲光みたいな閃光が続けざまに弾け飛ぶ。 「出る!……出ちゃう、よ!」  腰が自然と揺れてまさに射精してる状態になった。なのに、いつまでたっても開放感がないからイキッぱなし。お尻でイクのってすごく気持ちいい……気持ちいいけど、蛇神、それ……気持ちよすぎて、おかしくなる……ッ! 「もうイク!……い、ああぁ、出る、出るぅッ!」  高く叫ぶとお尻から何かが音を立てて抜け出る感触があった。  勢いよく出てきたのは鎌首をもたげた蛇の頭だ。それは頭を緩く振りながら高く伸びあがると、反転して僕のペニスの先をがっぷりと咥えた。おちんちんの先っぽの小さな穴を、長くしなる舌が逆行してくる。 「ひぃ!……ひぃいっ!」  奥に溜まる精液を啜り上げようと、長い舌がずるずる潜り込んできた。粘液を絡めとって出ていっては、またすぐに潜り込んでくる。総毛立つような快感。  容赦ない尿道責めが、何度も何度も射精するような感覚にも、失禁したような感覚にも似ていて、僕は廊下で打ち上げられた魚のように跳ね続けた。 『これほど善がるくせに何を嫌がる。いっそ毒を注いで理性も何もなくしてやろうかえ』  蛇神の冷えた声音に、僕はぞくりと背を震わせた。  このエロい蛇の毒は強烈な媚薬のようなものだ。  前はお風呂のお湯で薄まったものを飲み込んだだけだったけど、それであの気持ちよさと乱れようだったんだ。毒を直接注がれたら確かに理性なんてなくなって、僕は操られるまま誰にでもお尻を突き出してしまうだろう。  僕の体に住み続けたいなら、それだけは絶対にするなと固く約束させたけど、意志薄弱な今の僕は――――うんと言ってしまいそうだった。  下腹が熱くて、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなほど気持ちいい。いっそ何もかも蛇神に乗っ取らせて、操り人形のようになってしまおうか。僕の人生がどうなっても、悲しむ家族もいやしないんだから。  蛇神に指示されるまま、いやらしい姿で夜の街を歩く。  霊力の高い人間を見つけたら、蛇神が術にかけるから、僕は路地裏の薄暗がりに行ってお尻を出すんだ。蛇の毒のせいで僕の体はもうトロトロに蕩けていて、濡らしたお尻の穴がくぱくぱと開いてる。その中に名前も知らない相手のおちんちんを入れてもらって、自分からお尻を振って中出ししてもらうんだ。  警察に見つかったらどうしようなんて心配はしなくていい。やってきた警察だって、蛇が術にかけてしまうから。二人でも三人でも続けざまに僕のお尻の中に射精していく。蛇はそれを悦んで喰らって、ますます強い毒を僕に注いで……。 『お前が望むなら人の身では味わえぬような愉悦をくれてやろう。さぁ、我に望め』  西洋では蛇は誘惑者だとされているけど、日本でも蛇は人を惑わせるのが得意らしい。  こんな状態で誘惑されて、逆らえるはずがなかった。逆らったら、いつまでもこうやって絶頂寸前の生殺しにされちゃう。しかたがないんだ。蛇の置物を渡された時から、これは避けがたい運命だったんだ。  僕は喘いだせいで乾いた唇を舐め、毒を注いでくれと、……言おうとしたその時。 『…………ッ!』  まさに言葉にして願おうとしたその時、蛇神の短い悲鳴が聞こえた。  一瞬にしてお尻の圧迫感が消え、それどころか、常に感じていた蛇神の気配さえもがなくなった。  僕のペニスからは蛇神が飲み損なった残りが白く濁って吐き出され、終わりを迎えた体の熱が急速に鎮まっていく。  体中脱力しそうなくらいの満足感。ドライで昇り詰めた時の、じわりとした余韻が甘く残っていて気持ちいい。――――毒なんてなくても、十分以上だ。  僕はひとしきり余韻を堪能してから、目を開けて部屋の廊下を見た。 「……蛇神?」  声に出して呼んでみたけど、返事はなかった。  何が起こったのかわからないまま気怠い体を起こした僕は、ちょうど蛇神がいたあたりに白い欠片が落ちているのに気が付いた。  手に取ってみると、鋭く尖った獣の牙だ。小さい頃から見慣れた、僕の身に危険が及びそうなときに必ず現れる、姿の見えない獣の牙。この牙のせいで蛇神は姿を消したらしい。  僕はそれを手に握りしめた。 「守ってくれたんだね……ありがとう」  拳ごと、額に押し当ててお礼を言う。  次に手を開いた時にはもう、手の中から白い牙は消え失せていた。

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