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多数決の結果――五分五分だが、有利なのは鬼ごっこだろう。立食パーティーは去年、一昨年もやっており、親についてパーティーに行く機会の多いこの学園の生徒たちは体を動かせるときに動かしておきたいという思考の生徒が多い。
もちろん、見た目的に運動ができそうな紅葉も、実のところインドアな部類に属している。
去年の体育祭なんて散々だった。運動はできないから簡単なのにしてくれと頼んだ結果が、――この話はまたの機会にしよう。思い出したら思い出したでモチベーションが下がってしまう。
「なるほど、反対意見などありましたら好き勝手に喋ってください」
「えっ、急に役割を放り出さないでちょうだいよ一澄 ぃー」
「私語は謹んでください保健委員長さん」
「だったらちゃんと議長やってくださーい図書委員長さぁーん」
やけに仲のいい掛け合いを見せる保健委員長と図書委員長に、困惑する。
とりあえず何も見ていないフリをして議案書に視線を落とした。
熱く甘い感情のこもった保健委員長の保村の視線に、見ているこっちが小っ恥ずかしくなってくる。
一澄がまったく相手にしていないにも関わらず、甘ったるいセリフを吐く保村はめげない。「またか」と呆れを含んだ表情の委員長たちからしていつものことなのだろう。
「いい加減煩いです保村。今日は白乃瀬君がいるんですから自重したらどうなんですか」
「……なんで会計君が関係あるのさ」
話題に引っ張り出されるとは思わなかった紅葉は紙から顔を上げて目をぱちくりと瞬かせる。
隣に座っていた神原は、年相応の表情をあらわにする紅葉に、そんな顔もできるのだと驚いた。
誰に対しても博愛主義な紅葉と、誰に対しても丁寧で真摯な一澄に接点があるようには見えないのだが、隠れた関係だったりするのかと下手な勘ぐりをしてしまう。
一澄のことになるとすぐ熱くなる保村は納得するまで引かないだろうし、それまで会議が再開されることはないだろう。
神原自身も保村同様に二人がどんな関係なのか気になった。
他の委員長と同じく息を潜めて場を見守る。
「そりゃ、俺の大切な白乃瀬君にこんなところ見せたくないからに決まってるでしょ」
「……は?」
爆弾が落とされるまでは、そう思っていた。
保村に射殺すような目で睨めつけられ、紅葉は縮み上がる心臓の早まる鼓動を耳にしながら、隣に座る神原が内心なにを思っているのかなんて露知らずに助けを求めて縋り見た。
ひとつ訂正をしておくが、一澄とは決してそんな関係ではない。
「俺(の弟)の大切な(友人の)白乃瀬君」と副音声が入るのを忘れてはいけない。面倒くさい誤解が室内に広がっていく。
「会計君、あとで校舎裏ね」
テンプレートなヤンキーの呼び出し台詞でガンをつけてくる保村に狼狽えながら、誤解を解こうと必死になればなるほど鋭利になる眼光にさらに焦る。
「ま、ちが、和々汰 さん!! 和々汰さんが変なこというから誤解されてるじゃないですかぁ!」
「白ちゃんが名前呼び、だと……!」
そこでハッと、顔を青くする。
やってしまったとうなだれる紅葉に、反論を講じる気力などない。、保村の容赦ない毒舌がグサグサと胸に突き刺さった。
「違う、違うんですってばぁ……」
「何が違うのかしっかりきっちり隅々まで説明してもらわなきゃ納得できないんだけど。どんなに仲いい友達でも名前呼びしないので有名な会計君がなんで俺の一澄を名前呼びしてるわけ?」
俺のもの発言にギョッとしながらも思考停止し始めている脳を無理やり動かして言葉をひねり出すが、どうにもこうにもいい言葉が出てこない。
「そ、それより、会議しましょーよ……」
「会議は後からでもできるし、俺は白ちゃんと一澄の関係が知りたいなぁ」
射殺されそうな眼光と圧に思わず天を仰いでしまった。
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