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「白乃瀬センパイ、おはようございます」
久しく姿を見ていなかった表情の乏しい後輩に目を瞬かせる。
「新田 じゃん! おひさぁ」
「お久しぶりです。図書委員長も、おはようございます」
「うん、おはよう新田君」
ツンツンした黒髪に目尻の垂れた真っ黒い目。日本人らしからぬ彫りの深い目鼻立ちの整った顔立ち。
彼は生徒会書記を務める唯一の一年生である新田透 。
気が抜けそうになる垂れ目がうっすらと笑みを浮かべてたどたどしい言葉を紡いだ。
「生徒会の仕事、任せきりにしてしまってごめんなさい。白乃瀬センパイがちょうど実家のほうに帰ってたので言えなかったんですが、イギリスに短期留学行ってました」
「え、イギリス?」
ほんとに海外行ってたよ。
「お土産とかないの?」
ひょこっ、と一澄と紅葉の間から顔を出した人物に新田はびくりと肩を震わせる。
会計に書記に図書委員長に風紀委員長。ランキング上位生徒が四人も集まっている光景に周囲のざわめきがどんどん大きくなった。
「図書委員長、俺たちはあっちに行きましょうよ」
積もる話も早々に、一澄の返事を聞く前に手をとって、逃げるように言葉を交わす間もなく去っていってしまった新田。
神原と新田の間に何があったのかは知らないが、一方的な苦手意識を神原は持たれてる。その苦手意識はかなり根強い物で、新田は『対神原レーダー』を搭載しているかの如くの逃げっぷりを毎回見せてくれる。
そそくさと舞台裏に逃げ込んでいった後輩の背中を寂しそうに見つめる神原がしょんぼりしているように見えて少しかわいそう。
聞けば中等部の頃、初対面の時からあんな反応らしい。
「ご愁傷しゃまです」
こんな時に噛まなくたっていいだろう僕。
「しゃま?」
「……ご愁傷様! です!」
「白ちゃんまじ可愛いわー」
「噛んだ僕へのあてつけですかコノヤロー」
脇腹に拳を叩き込もうとしたが軽々と回避され、紅葉はぶすっ頬をふくらませた。
たとえ当たったとしても鍛えている神原にしてみれば痛くも痒くもないのだが、そのことを考えるとまた自分の非力さに落ち込んでしまう。
会計様と風紀委員長様の他愛ないじゃれあいに生徒の列から黄色い声が上がるのはご愛嬌。
カメラのシャッター音が聞こえたが気にしていたらキリがない。
「あはは、そうゆうのが可愛いって言ってるのに」
「神原さんは相変わらずカッコイイですねぇ」
「白ちゃんは相変わらず可愛いね」
どこのバカップルだ。茶番に肩を竦めて会話を投げ出し、先に行ってしまった二人のあとを追いかけるべく舞台裏へと足を進めた。
チラリと背後に目を向ければ、手を振っているからつい手を振り返してしまった。
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