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 気分は研究者に捕まった宇宙人。  右手は会計親衛隊隊長に、左手は強姦されそうな窮地を救った美少年もとい桜宮都(さくらみやみやこ)に握られている。  ざわざわとする食堂への道を歩きながら、どうやってこの状況を打破しようかと紅葉は思案した。  さらさらの黒髪に綺麗なアーモンド型の瞳は上品な猫を連想させる。ふわふわの毛長猫のような隊長とはまた違った系統の見目麗しい美少年だが、その実、中身はただのタチの悪い悪魔だ。  三年の綺麗所である隊長と、一年の綺麗所の桜宮を両脇に侍らせ「両手に花だ」と手放しに喜べればよかった。その綺麗な花が毒を孕んでいるせいで素直に喜べない。  常であれば癒やし要員の隊長もピリピリと嫌な雰囲気をまとっているものだから居心地が悪くて仕方ない。  我らが会計親衛隊隊長様の機嫌が悪い理由はもちろん、先日の新入生歓迎会の際の強姦未遂と左手を握る人物のせいだろう。 「誰それとはなるべく接触をしないように」と忠告はするものの決して制限はしない隊長が珍しく、「絶対接触を避けてね」と眦を釣り上げキツく言いつけていた白乃瀬紅葉親衛隊副隊長との接触。  頑なに拒否して自身の親衛隊であるにも関わらず副隊長の名前すらも教えない徹底ぶり。  歓迎会時は桜宮が副隊長だと知らなかったが、すんなりと納得できた。  桜宮は中学校の同級生の弟で、何かと慕ってくれる可愛い後輩だった。  今年に入り、副隊長が変わったのは耳にしていたが、知り合いの弟だとは思いもしなかった。  それ以前に桜宮(おとうと)がこの学園に入学していたことすら紅葉にしてみれば予想外だ。 「桜宮君、あまりそうやって白乃瀬君にくっつかないでくれる?」 「えーなんでですかせんぱーい。紅葉さんも嫌がってないしいいじゃないですかー」 「その『紅葉さん』っていうのもやめてほしいんだよね。副隊長として自覚が足りないんじゃない? 白乃瀬君は優しいから言えないの。それぐらい考えればわかるでしょ?」  挟んで行われる静かで冷たい戦争に冷や汗が流れる。  本格的にどうにかならないかと笑顔を振り撒くが周りの生徒は見惚れたのち、左右の二人に青ざめるのだ。救いの手は望めない。  隊長も桜宮もカンペキで美しい笑顔なのに見た者に恐怖を覚えさせる。  口論しながらも息はピッタリで、無駄に豪奢な両開きの扉が同じタイミングで開かれる。食堂内はちょうどお昼どきで賑わっていた。 「白乃瀬様だ……」 「ほんとだ、食堂にいらっしゃるなんて珍しい」 「ていうかちょっと……両脇にいるの」  紅葉がやってきたことでざわめきが一層増すがどうにもいつもよりざわめきが大きい。  手を引かれたままどこか座れる席はないかなーと首を巡らせるが、込み入った時間帯でもありどこも満席だ。  身内話になるのはわかりきっている。できればテーブル席にしたかったのだがそう都合よく空いてない。  二階の役員席ならスカスカだが、あいにくと親衛隊含む一般生徒は上がってはいけない決まりとなっている。普段キャーキャー(野太い)騒がれる生徒のための配慮、なのだそうだ。 「下で食べるんですか?」 「うん。聞きたいことあるし、先輩も僕に聞きたいこと、ありますよねぇー?」 「よくわかったね。……というわけで桜宮君はどっか行ってくれる?」 「はぁ? ふざけてんですかー?」  黒い、笑顔が黒い。  犬にでもやるようにしっしっと手を払う隊長、にこれまた黒い微笑で舌を打った桜宮。  今にもキャットファイトが開催されそうだ。

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