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 パァン、と発砲音が鼓膜を揺らした。むせ返る硝煙の中から飛び出す。 『トップを走るのは一年生!』 『次点を走るのは三年生・美術部部長です!!』 『そして三位は我らが会計様の白乃瀬紅葉でございます! 去年に引き続きの出場ですが――』  案の定ビリケツでお着替えボックスに到着した。  仮設更衣室に飛び込んで、かけられた衣装に目を瞬かせた。  真っ白い軍服だ。編み上げブーツに、金の装飾が煌く軍帽。  やけにボタンの多い衣装にげんなりしたが、去年のミニ丈チャイナに比べれば最高の布面積。首も背中も足も全部隠れる、最高以外の何物でもない。  意気揚々と着替え、鏡で帽子を再確認してお着替えボックスから外へ出た。――同時に、隣のボックスから真っ黒い衣装を纏った美術部部長も出てくる。  まったく同じ形の色違いにお互い顔を見合わせて目を見張った。 『なんという巡り合わせでしょう! 白と黒、ふたりの軍服が見られるキセキ! 僕としては会計様の軍服に驚いています! カッコいい衣装も似合う会計様、さすがでございます!』  神切が一歩前を走る形でリードしたまま、クジ箱にたどり着き、手を突っ込んで勢い良く引いた。  動かない神切を横目に、たどり着いた紅葉もクジを引く。どうせビリなのだから、慎重に選んで引いて、目をぱちくりと瞬かせた。 「……風璃さんッ!!」  ゴール付近にいた神原に声を投げる。転びそうになりながら、手を振った。 「紅葉君!?」 「お題っ!」  ぺら、とお題が書かれた紙を見せる。  現在トップを走っている一年生はまだお目当てのお題が見つかっていない様子。美術部部長も未だ考えあぐねていた。 「これ、ワンチャンある?」 「よぉし、頑張って走ってください先輩!」 「キミも走るんだよッ!」とお互いの手を握り締めてゴールに一直線だ。  お題を手に入れた一年生もすでに走り始めているが、クジ箱からゴールまで百メートル。圧倒的に紅葉たちが近かった。しかしながら、いかんせん、紅葉は運動音痴である。 『おおっと!? これはどうしたことでしょう!? 我らが会計様と風紀委員長様が手を取り合って走り出します! 一体全体お題はなんだったのか、気になるところですが――』 『一年生齋藤君もお題……アレはメガネでしょうか! メガネを手に距離を詰めます! ものすごい追い上げです!』 『会計様を応援したいのですが、皆さん知ってのとおり会計様の運動音痴を思うと一年生のアラン君は十分に一位を取る可能性があります! ぜひ頑張ってください!』  歓声が大きくなる。お互いの手を痛いくらいに握り締めて、前へ前へと足を出すが気持ちばかりが急いてしまう。  百メートルってこんなに遠かったっけ。  近づいてきたゴール付近、感情の読めない顔で神原が立っていた。  ドキ、と心臓の裏で脈が鳴り、繋いでいた手から力を抜いてしまう。 「こらっ! ……ったく、仕方ないなぁ!」  繋ぎ直された手を強く引かれて、抱き上げられる。  グン、とスピードが上がった神原に、振り落とされないようにしがみついた。 『――ゴールッ!!  一位は同着、紺碧組! 姫抱きされてゴールした二人です!』 「一位おめでとうございます! お題の確認です。会計様のお題は――『仲良しな先輩』!!」  お題の確認にやってきた生徒は紙と紅葉と神切を交互に見ては口をぱくぱくさせる。  周囲の生徒はなんだなんだとざわめきが広がった。 『一体どうしたことでしょう!』 『交友関係の広い会計様が!! ついに風紀委員長を一番の仲良しと認めた!?』  大混乱である。  まさに波乱の運動会。  にっこり笑みを浮かべているはずの宮代がじぃっと、未だ繋がれたままの手を見つめている。  ハッとして、手を振り払った。残念そうに見られるがそ知らぬふりだ。 「紅葉君はあとで覚悟しておくように」 「はぁ!?」  理不尽だ。何を覚悟しておけというのだ。  周りの生徒から生暖かい視線を向けられる意味もわからない。なんなんだ一体。  ごたごたしつつも、仮装借り物競争も無事に終了した。

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