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「白乃瀬先輩って、やっぱ風紀委員長のこと好きなんスか?」
白い目で隣に座る新田を見やる。
「何言ってんのキミ」
「そんな冷たい目で見ないでくださいよ。俺なりに考えた結果っす。誰がどー見ても明白でしょ」
何を言っているんだ、と逆に呆れた目で見られた。
心外だなぁ。唇を尖らせて、細められた瞳は琥珀色を揺るがして不思議な色彩を見せる。
人成らざるモノのそれはきゅるりと瞳孔が細くなって、琥珀色に解けた。
不思議な変化に新田は気付かず会話を続ける。
「まだ返事ってしてないんですよね」
「……してないけど」
「昼もあんな熱烈な告白されてたじゃないッスか。顔真っ赤にして、白乃瀬先輩にも可愛いとこあるんだなーって思いました」
「――見てたの!?」
詰め寄る勢いで顔を近づければイヤな表情で背中ごと避けられた。ほんの少し傷ついた。
頬を引き攣らせて、紅葉の鬼のような形相に「あんだけ大きく騒いでたらそりゃ目立ちますよ」と日之とのやり取りまで見ていたことを新田は白状した。
『ここで! 選手の紹介でっす!!』
放送にリレーへと目を向けた。
足の速さに自信のある生徒たちは、紅葉には考えられないスピードで走り抜けていく。
一年生はスポーツ特待生や陸上部、サッカー部だったり運動部を中心に出場しており、現在トップを走る選手も一年生だ。
身体も成長しきっておらず、小柄で細身の彼らは風の抵抗を受けにくく、スイスイ前へ泳いでいく。
「あ、風紀委員長、アンカーみたいですね」
「……そーだねぇ。どうせ、ぶっちぎりの一位でゴールすんじゃなあい」
投げやりに吐き出された言葉に、新田は目を丸くして、気だるげな先輩の横顔を凝視する。
なんだかんだと言いながら、この適当な先輩は風紀委員長のことを誰よりも信じているのだろう。
視線に気づかない紅葉は、ぼんやりと視界の中心に神原を捉えていた。
燦燦と輝く太陽の光を受けて、ところどころ赤色の混ざった白銀髪が煌いている。ハーフTシャツに、ジャージの長ズボンをふくらはぎあたりまで捲くった格好にやる気は見られない。
「頑張るから見ててネ」と某宇宙人と似たようなことを言っていたが、つまるところ余所見なんてせずに見てろってことだ。長い付き合いとも言い難いが、半分くらい考えていることがわかるようになってしまった。嬉しくない。
「告白に返事しないんスか」
「僕が返事をするしないは、新田君に関係ある?」
「ないけど……でも、ほんと、そろそろどーにかしたほういいっすよ。委員長のファンがうるさくなってきてますから」
眉間に力が入る。奥歯をキツく噛み締める。
水嶋からも言われている。それでもまさか我関せずの態度を崩さない新田だから、てっきり見て見ぬふりを決め込むと思っていた。
神原風璃を一言で表すなら、暴風である。荒れ狂う風のように荒い気性と、気まぐれに吹く風のような性分。水面下ではそう呼ばれているが、先にも記したとおり紅葉に対してはどこまでも優しいお兄さんだった。
風紀委員長とは思えないほど着崩した制服に、受験生とも思えない髪色。一学年のときはだいぶ問題児であったと耳にする。
心は傾いている。ほんのちょっと揺らせば、零れてしまう。
溢れそうな想いに蓋をするのはとっても大変だ。もし、もしだ。神原と心を通わせ、思いを通じ合わせたとしよう。初めはいいかもしれない。でもすぐに待ち受けている困難を乗り越えられる気がしない。
いずれ神様に嫁ぐ。変えられない事実で、待ち受けているのは別れだ。
今生で、大切なモノを作りすぎた。もし愛する人ができてしまって、僕はその人に別れを告げられるだろうか。――否、告げなければならない。
遊んではいけません。
友人なんて必要ありません。
助けを求めてはいけません。
気を許してはなりません。
本心を見せてはいけません。
貴方は継ぐのだから。
白乃瀬の神様に嫁ぐのだから。
未練を残してはいけません。
ぼんやりと、意識をたゆたわせた。
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