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あれから数年が経つ。龍介さんのマンションから解放されて、龍介さんからの連絡はなくなった。本当に解放された。俺は新しい仕事につき、普通の生活を送っていた。恋人になりかけた人もいたけれど、今はもう、この先ずっと1人でも良いかなとも思っている。 その日は友達の披露宴でホテルに来ていた。 「蒼耶は?最近どうしてんの?」 友達が料理をぱつくきながら、聞いてくる。 「普通ー。」 「なんだそれ。つまんなー!」 「はははっ、普通って、最高だよ。」 つまらなそうに呟く友達に、俺はニコニコと答えた。普通。そう。それが良いんだ。地に足がついてて、自分を見失わない。きっと、それが良いんだ。そうなんだ。 「あっ、新郎新婦きたきたー!」 わっと、明るくなる披露宴会場。皆が明るく拍手をする。 「………」 俺も、皆からワンテンポ遅れるが、立ち上がりパチパチと拍手をした。 「この曲、いいよねー!」 「俺も好き〜。」  「うちも、夫婦揃って龍介ファンだわ〜。」 新郎新婦が入場で流したのは、龍介さんの曲だった。ラブソング。最近、新しくリリースされた曲だ。 誰の事考えて…書いたんだろう。 つきりと胸が痛くなる。そんなふうに感じる事でさえ、痴がましいのに。 --- 「あら、蒼耶はこの後の飲み行かないの?」 「うん。ちょっと体調が微妙だから。皆にうつすと悪いし。新郎新婦に挨拶して帰る。」 「そっかー。残念ー。また別でも飲もうなっ!」 「うん。」 体調が悪い。ちょっと、きつい。 最近は働き詰めだったので、息抜きにと俺はホテルに部屋を取っていた。しかし折角の息抜きのはずが、部屋でもまだモヤモヤと胸が息苦しくて辛い。 コーヒーを入れて、ソファに座る。テレビをつけると、CMに龍介さんが出ていた。 「……」 部屋に篭っているからだ…。 いやいや………なんか飲もうかな。 おれはふらふらと、ホテルのバーに向かった。薄暗い室内。何処となく、懐かしくていい匂いがする。蝋燭の小さな光がゆらゆら揺れる窓側の席に座った。眼下には夜の夜景が広がっていて、少しは気が紛れる。 「………綺麗」 …横にいたらな。 「……」 氷が溶けて音が響いた。 あ、早く飲まないと…氷、結構溶けてきてる…。 俺は自分のグラスに視線を落として、また顔を上げた。 「……!」 すると、窓ガラス越しに目が合った。相手も俺を見て目を丸くしている。振り返ると、やっぱりそうだ。龍介さんだ。 「………」 「………」 しかしどうする事もできず、お互い沈黙してしまう。そうしてる間に、龍介さんは踵を返して歩き出した。 「……あっ、まっ」 俺は慌てて後を追い、腕を掴み龍介さんを止めた。 「っ」 足を止めて振り返った龍介さんは、珍しく狼狽ていた。 「……蒼、なんで、ここに居んだ?」 「…あ、えと、…友達の、披露宴で……」 「はっ…、だからそれ、嘘だろ。」 (あっ、) そういえば、前に同じような嘘をついた。 そこで初めて龍介さんが口の端を上げて笑った。その笑顔をみたら、今までのモヤモヤがすっと落ち着く。あぁ、 「会いたかった、です…。」 俺がそう呟くと、龍介さんが目を見開いた。 これは、俺の気持ち。確かに、俺の感情。Ωとか、番とか、そうじゃない。だって、ずっと考えていた。日々ちょっとずつ整理して、理解して、分かっていたけど、誤魔化してきたことだった。 「ずっと、会いたかったです。」 俺はぎゅっと、龍介さんに抱きついた。龍介さんは立ち止まって、こちらを振り返る。 「好きです…。」 俺は強制される事なく、初めて自分から龍介さんにキスをしようとした。 「……………だーめ。」 「え。」 しかしそんな俺を龍介さんが押し留めた。 「あ…、…あぁ、俺…すみません。」 そうか。龍介さんだしな。新しい恋人が居ても不思議では無い。にしても、俺、思わず勝手に先走ってて、恥ずかしい…。 急に恥ずかしくなり、俺は顔を赤くして俯く。 「…ふっ、可愛い。」 そう言って、龍介さんは俺の顎を持ち上げキスをした。久方ぶりの荒っぽいキス。唇が離れると、いつもの歪めた笑いではなくて、綺麗に優しく笑う龍介さんと目が合う。 「ははっ、人少なくて良かったな。」 「あ、ごめんなさいっ」 俺が慌てて離れようとすると、笑う龍介さんに手を引かれた。 「蒼」 「……はい。」 「…ごめん……」 「……はい」 「本当に…ごめん…」 「……はい」 「俺を、受け入れてくれるの?」 「……はい」 俺の身を引き寄せ、龍介さんはポツポツと話す。 「本当に?大丈夫?」 「……はい。それは、数年かけて考えたので…。」 「ははっ、真面目か。………すげぇ嬉しい…。」 龍介さんが、満たされたように笑ってくれた。俺も嬉しい。こんなに満たされたの、いつぶりだろう? 「蒼の頭の中、数年間俺が占めていたの、凄く嬉しい。」 龍介さんは俺のおでこをなで、キスを落とした。 「…あの……時間あれば、これから一緒に…」 「……やる?」 「…違います!呑みませんか?」 「……ははっ、なんだ。いいよ。でも俺、部屋取ってない。」 「あっ、そうですか…。」 「………」 龍介さんは、俺の手を離さず指の腹で撫でる。 「……龍介さん、俺、部屋取ってますから、そっちで呑みます?」 「え、部屋あげてくれんの?」 龍介さんが笑みを深くした。 「……はい。ここだと、人目もありますし…。」 「そうだな。じゃ、酒代は俺がだす。」 「……はい。」 「買って行くか。」 「……そうですね。」 そう言って、コツコツと歩き出した。すると、龍介さんがそっと顔を寄せてくる。 「でもさ、もしかしたらそういう雰囲気になるかもじゃん?」 「……え…うーん……。」 「部屋にあげてくれるんでしょ?」 「……はい。」 「ベッド1つでしょ。」 「……はい。」 「そん時は、縛っていい?」 「……は………え。だっ、ダメです!」 「はははっ、あー、そこはまだガード固いかぁー。…まぁ、縛るけど。」 「え、ちょっ……、龍介さん!」 「無理矢理強姦風がいいんだよなー」 「何言ってんですか!」 「はははは」 龍介さんは口の端をニヤリと歪めて笑う。それをみて、俺もまた笑ってしまった。 そんなやりとりをしながら、コツコツと一緒に歩いていく。廊下の照明はキラキラと何処までも明るい。そこを2人で、並んで歩いて帰った。 〜おわり〜 読んでいただきありがとうございました!ラストの方向性急に変えたり、あつ森にハマったり…更新が遅れてしまった。 一旦ここで、ひと段落です。。

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