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第3話

 ***  誰か今の状況を説明して下さい。井川くんが、すごいです。  俺に遠慮しすぎて、声もかけれないような子が、今はこれです。俺に凭れて、なんと自分で前に触れ始めました。  右手はパンツの中、左手はどうやら乳首を弄っているようです。時折漏れる声が非常に色っぽいです。  どうしたらいいでしょうか。 「んんっ!」  小さな身体が震えた。どうやら達したようだ。恍惚とした表情がまずい。普段、あまり表情を変える子じゃないだけに、このギャップはやばい。  全身真っ赤にして、涙を浮かべて、苦しそうに息をする姿は、非常にまずい。煽られる。その上、まだ足りないとばかりに、手がまた動き始めた。  『発情』なんて大げさな言葉を使うなどと思ってしまったが、違う。井川くんは本当の意味で俺に発情しているんだ。 「んっ、んっ」  ああちくしょう。可愛いな。こんな顔、山野には見せていないだろうな? 発情するのは俺だけなんだよな? 山野とは普通に話していたらしいし、そういうことだよな? 「黒島、さ、す、好き」  ぷっつん、理性の糸が切れた。  井川くんを抱き上げ、もたつきながらも靴を脱ぎ、中に入る。隅に畳まれていた布団を、乱暴に足で蹴り広げた。上布団かもしれないが、もはやどうでもいい。そこに井川くんを下ろす。井川くんはまだ、とろんとした状態で、俺を不思議そうに見つめている。 「だ、いて、くれるの?」  ああもう。堪えきれず、井川くんの唇に自分のそれを触れさせた。舌を突き入れ、中を探る。井川くんは、俺の服を強く掴み、キスの最中にも喘いでいる。   「あ、ぅ、黒島さん、俺に、発情してくれるの?」  さっきから何なんだよ、その言い回しは! こっちは色々葛藤して我慢してるっていうのに! 「当たり前だ! 好きな子のこんな姿を前にして、そうならないわけないだろうが!」  井川くんは、大きな目を更に大きく見開き、それから、笑った。 「嬉しい」  こめかみに一筋涙が通り、布団の方へ流れて落ちる。  だめだ。完全に陥落した。  井川くんと付き合うことになって、どういうものなのかなあなんて、ネットで情報収集は済んでいた。実践は初めてだけど、こう後ろの方を触れて解していけばいいんだろうか。   「い、かわくんは、慣れてるの? こういうの」 「俺、よく、わかんな、い。前の僕だった、ら」 「ん?」 「ごめん、なさい」  よくわからないのに俺に対して発情していたのか。「ん、ん」と身じろぐ井川くんは、布団の感触だけでも堪らないらしく、苦しげに声を漏らしている。  どうにかしてあげたいし、俺もどうにかしてほしい。股間が痛い。   「井川くん」 「ん、黒島、さん」 「俺、もっと勉強してくるからさ、ごめんね」  悔しいが、あやふやな知識で手を出して傷つけたくはない。  ジーンズの前をくつろげ、緩く勃ちあがったものを取り出す。井川くんのズボンを引き下ろし、既に濡れて震えているそこと重ねた。   「あ、え?」 「一緒に」 「ふぁっ」  井川くんに覆い被さるようにして両手で2つのものを擦り合う。やがて、意図を察した井川くんが、そろそろと前に手を回した。 「そこ触ってて」  片手で体重を支え、もう一方の手で、井川くんの白い胸板を晒す。乳首、触るの好きなのかと思ったけど、きれいな淡い赤い色をしていた。可愛いな。井川くんのものを擦りながら腰を振る。  井川くんは戸惑いのせいか、少し理性が戻ってきているようだったが、段々とまた快楽の波にのまれていった。その様が素直に表情に表れ、また煽られる。 『男だけど、可愛いもんな-、井川ちゃん。話してみたら意外と感情豊かというか、素直だし』  うるさい、黙ってろ。   「黒島さ、ん。項、僕の項、噛んで」  井川くんに誘われて、山野への苛立ちにも掻き立てられ、顔を背け晒されたそこに歯を立てた。  井川くんの顔が歪む。と同時に、達したようだった。すぐに呆けた表情になる。その様をじっと見ていたら、ますます興奮してきた。 「俺、も、イっ、て」 「うん、ごめん、俺ももう少し」  井川くんの手が、俺のものに触れる。上下に撫でてくれる。それだけの単純な動きで、俺も射精していた。  狭い部屋の中に、荒い息づかいばかりが響く。視界の片隅に、山積みになったカップ麺を見つけた。あまりよろしくない食生活をしていることは明らかだ。 「小さくても、いいから、さ。今度、冷蔵庫買いに行こう」 「はい」  井川くんは、両手で顔を覆い、ひっくひっくと泣いていた。  俺はその頭を抱いて、布団の上に寝転んだ。    *** 「あれは、妹です。同じ大学の1年生。井川くんと一緒」  とりあえず、お互いに身体を清め、着替えをした。じっくり話をしてみると、井川くんは大きな誤解をしていたようだった。  そもそも、俺に彼女がいると思っていたとか。 「そこまで不真面目じゃないよ、俺は」 「ご、ごめんなさい」 「いや、山野からの誘いもちゃんと断ってですね」 「誘い?」 「何でもない」  言ったら余計にネガティブな方向に突っ走りそうだ。  やや強制的にではあるが、壁に凭れ、井川くんを足と足の間に抱いている。井川くんの濡れた髪から覗く白い項には、くっきりと俺の歯形がついていた。  噛み癖なんて、なかったと思っていたが、これはこれで、所有印のようで悪くない。   「発情、してくれるのは嬉しいけど、近づけないのは困るなあ」 「多分、多分ですけど、大丈夫だと思います。多分、もう、今は」 「そう」  少し残念だ。  欲求不満が解消されたからということだろうか。こんな何も知らなさそうな井川くんに、あれほど激しい欲求があったとは驚きだが、それもまたいい。 「好きだよ、――恵」  井川くんは、耳まで赤くして、小さな小さな声で「俺も、好き」と返してくれた。 (END)

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