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第1話 宙を舞う少年
小学六年生の冬。ぼくらは宙を舞った。
男子児童の間で流行った度胸試しのようなものだ。一メートルくらいの高さに降り積もった雪の上に、どれだけ高い所からダイブできるか。小心者のぼくは公園の滑り台の上から飛ぶのがやっとだった。ぼくらの遊びは誰かの親に注意され、学校でもこっぴどく叱られた。
だけど雪成 は違っていた。白い肌に赤い頬と唇。大きな瞳でもうすぐ中学生になるのに声変わりもしていない、女の子のような少年だったが、度胸は学年の、いや学校中の誰よりも強かった。
ぼくと雪成は家が近くて幼い頃からの友人でもあり、学校帰りはいつも一緒に遊んでいた。
しかしある日事件が起こった。
車すらもすっぽりと覆いつくしてしまうほどの大雪が降った日の夜。雪成の家族がぼくの家族の所に来て、「雪成がいない」と言った。
ぼくはびっくりした。その日雪成は熱が出て学校を休んだはずなのに、雪成のお父さんの話だと、朝学校を出たきりどこに行ったのかわからないそうだ。
ぼくの家族と雪成の家族はみんなで雪成を探して町中を駆け回った。
ぼくは雪成が大好きだから一生懸命探した。
ぼくたちには秘密基地があった。きっとそこだろう。
誰も住んでいない二階建てのぼろアパートの屋上。
ぼくの姿を見つけると雪成は高らかに宣言した。
「優輔 ! ぼくをずっと見ててね! ずっとずっと大好きだよ!」
「やめろ雪成っ!」
ぼくの声が届く前に雪成はぼくの目の前で大きく両腕を広げ――まるで翼のように――そのまま宙を舞い、自由を求めるようにぼくの前で飛び降りた。
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