「うーん美味しい！　差し入れありがとう、優輔。プリンの他にも、色々持って来てくれたの？」 　ぼくは対面に座る優輔に、最大限の感謝をした。 　いつだったか覚えていないけど、ぼくは頭を打って救急車で病院に運ばれて、そこでしばらく入院して、また別の病院に入院した。 　入院生活はつまらない！　個室なのは嬉しいけど、共有スペースに行かないとテレビが観れないし、病棟内にスマホが持ちこめないから、とにかくつまらない。 　朝、昼、夜。三食ご飯を食べて、たまにシャワーを浴びて、それから寝るだけ。 　毎日毎日その繰り返しだ。 　幸いぼくは読書が好きだから、パートナーの優輔に頼んで、ぼくの大好きなミステリものを図書館からたくさん借りてきてもらっている。文庫本なら一日一冊読めちゃう。 　それくらいヒマってこと。 　外に出られないぼくの代わりに、優輔に色々助けてもらっている。 　洗濯物もぼくの代わりに洗って届けてくれるし、ぼくが食べたいもの――プリンとかフルーツゼリーとか杏仁豆腐とか――を差し入れてくれるし、何より週に三回も、ぼくに会いに来てくれる。 　ぼくと優輔は小さい頃からの幼馴染だけど、昔からずっとお互いのことが好きで、幼稚園も小学校も中学校も高校も大学も、ずーっと一緒に通って、ぼくかな？　優輔かな？　とにかくどちらからかプロポーズして、ぼくらはパートナーになった。 　もちろん結婚したいけど、この国では難しいことがたくさんあるから、いっそ外国に行こうか！　と本気で話し合っていた。 　でも、まずは、ぼくの病気を治して退院しなきゃだけどね。 「よかったら、もうひとつ食べます？」 「いいの？」 「あなたのために買ってきたので」 「やったー！　これから夜ご飯だけど、甘いものは別腹だもんね」 　二個目のプリンを食べながら、ぼくは優輔の顔をちらっと見る。でもすぐに視線をそらせてしまう。 　だってかっこいいんだもん。 　キリっとしたクールな目に見つめられるとドキドキしてしまう。 　ぼくは頭を打ったせいで、ところどころ記憶が曖昧だ。 　いつから優輔は、ぼくのことを他人みたいに敬語で話すようになったんだろう。病院って特別緊張する場所だから、かしこまっちゃったのかな？ 「ねえ、優輔。ぼくのこと今まで通り雪成って呼んでよ。それから敬語禁止！　ぼくらタメじゃん。ほら練習しよう。『雪成、大好きだよ』って言ってみてよ！」 「ここで？　いくら面会室とはいえ、他の患者さんも看護師さんもいるのに……？」 「小さい声でいいから！　ね、お願いダーリン。『雪成、大好きだよ』って言ってよ！」 「ゆ……雪成、大好き……だよ」 「ありがとう！　ぼくも優輔大好きだよ！」 　ぼくは嬉しくて思わず優輔にキスしちゃいそうになったけど、ぼくは自制した。ぼくって偉い。だって病院だもん。 「そうだ優輔。一月二十九日って空いてるかな？」 「空いてるけど、どうして？」 「もー、とぼけちゃって。その日はぼくの誕生日じゃん！　忘れたの？」 「……ああ、そうだ。ごめん。最近大学が忙しくて……つい」 　大丈夫。優輔は優しいから本当に忙しいんだ。嘘を吐くような人じゃないって知ってるもん。ぼくは前々からこの日にやりたいことがあったのだ。 「デートしよう！」 「デート？」 「外出許可取ってみて、先生が良いよって言ってくれたら、ぼくの誕生日にデートしたいの。ダメかな？」 「もちろん、いいよ」 「やったー！　ありがとう。じゃあ許可出たら、また電話するね！」 　ぼくは看護師さんと一緒に病棟から出る優輔を見送った。 　優輔が去った後、ガラスの自動扉にはガシャンと鍵が掛けられた。