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第7話

  「え。篠岡くん、秋吉とつきあうことになったの」  浦ノ崎先輩は白身魚フライ定食をつついていた手を止めて、ひどく驚いた顔でこちらを見た。  うんうん、普通驚くよね。僕も現在進行形で驚いてる!  だって相手があの秋吉先輩だ。あんなに高スペックなひとが僕とつきあうなんて誰が想像するよ。少なくとも校内に予想できた人間はいないと思う。  まず秋吉先輩とつり合う相手自体、そうそう存在しないんだけど。  並み大抵の人間はアタックする気すらおきなさそうだ。僕だったらきっと気後れして近寄ることすらできないと思う。  ちなみに僕の中で、惚れた腫れたとおっぱいに関わることでは話が別物になる。  恋愛は消極的だったとしても、理想のおっぱいに関しては譲れない。  秋吉先輩のおっぱいは僕にとって最優先事項なので、このためならば秋吉先輩がどんな相手だろうが遠慮せず突撃する。恐れ多かろうがなんだろうが理想のおっぱいのまえでは些末なことだ。 「なんか成り行きでですねぇ」 「成り行き……ってそれ大丈夫なの? 秋吉に無理強いされてるとかじゃない? もしそうなら正直に言いなね」  僕の返答に浦ノ崎先輩の表情がさっと曇る。そして過保護なくらいの心配をされてしまい、慌ててそれを否定した。 「ないですないです。大丈夫ですよ!」  むしろ秋吉先輩は僕に気を遣ってくれてる。というか、責任を感じてるんだと思う。  秋吉先輩的に、からだのおつきあいをしたからにはこれまで通りにただの先輩後輩の関係を続けるわけにはいかないという考えらしい。  僕が勝手に乗っかったのに責任もなにもないと思うんだけど、秋吉先輩はとっても真面目だ。  正直なところ、秋吉先輩が僕の理想のおっぱいの持ち主でなければ恐れ多くてつきあうなんて考えられないんだけど、そこはあれだ。欲望に負けた。  気づいたら二つ返事でおつきあいがはじまっていた。  予定外ではあったけど、秋吉先輩のおっぱいを僕が独占していいなんて嬉しさのあまり叫びたくなる。  おっぱい弄ってるときの秋吉先輩の反応も可愛すぎるし、先輩とのえっちはびっくりするくらい気持ちいいし、こんなに幸せでいいのかと思うくらい最近の僕は幸せ者だ。 「あ」  海鮮天丼の海老天を頬ばりながら先日のことを振り返っていた僕は、唐突にポケットに入っているものの存在を思い出した。 「そういえば僕、浦ノ崎先輩にこれを返しそびれてました! 遅れてごめんなさい」  危うく忘れるところだったと、ポケットから手のひらサイズの四角いパッケージを取り出して浦ノ崎先輩に手渡す。 「ん? ……ゴム?」  僕から未開封のコンドームを受け取った浦ノ崎先輩がきょとりとして首を傾げる。 「この前先輩のたくさん使っちゃったから、新しいの買ってきました」 「……」  秋吉先輩と致したあの日、当初一回で終わるつもりが予想外に回数重ねてしまい、気づけば浦ノ崎先輩のゴムを使いきる一歩手前まできていた。  さすがにマズイと思って新しく買い直したんだけど、ここ数日なかなか会う機会がなくて渡せずにいたんだよね。思い出してよかった。 「…………あのムッツリ野郎め」 「浦ノ崎先輩、どーかしました?」  浦ノ崎先輩が低い声でぼそりと何かをつぶやいていたけど、よく聞こえなくて首を傾げる。魚の小骨でも喉に刺さったのかな?  大丈夫だろうかと浦ノ崎先輩を見つめていると、先輩はハッとした表情でこちらを見返してきた。  そうして両手をぎゅっと外から包みこむように握ってくる。 「篠岡くん。秋吉に何か嫌なことされたらすぐにポイってしていいからね。あと僕がいつでも慰めてあげるよ」 「ありがとうございます。でも多分大丈夫です」  秋吉先輩におっぱいがあるかぎり、大抵のことは乗り越えられる自信がある。  それに秋吉先輩は僕が嫌がるようなことはしない。最近はびっくりするくらい優しいし。 「うん、でも大丈夫じゃないことがもしかしたらあるかもしれないから、そのときは遠慮なく僕を頼ってね」 「? わかりました」  浦ノ崎先輩は相変わらず僕に甘くて過保護で心配性で、あとスキンシップが激しいけど良い先輩だ。  なんだか悔しそうにしている浦ノ崎先輩にぼんやり視線を投げていると、突如僕の隣の椅子が引かれた。  ガタリという音に反射でそちらに目を向ければそこにはむっつりと眉間に皺をよせた秋吉先輩が立っていた。 「秋吉先輩」 「秋吉!」  僕と浦ノ崎先輩の声が重なった。 「篠岡。携帯、確認したか?」 「へ?」 「連絡を入れていた」 「え? ……あ、ほんとだ」  ゴムを入れていた方とは逆のポケットを漁ってスマホを取り出しチェックすると、秋吉先輩からお昼のお誘いが届いていた。  時間的に午前中の休み時間に送信されたもののようだ。  僕は基本マナーモードで放置なので、チェックすることの方が稀である。当然秋吉先輩からの連絡もまったく気づいてなかった。 「携帯を携帯していてなぜ見ない」  そんな僕に秋吉先輩がまなじりをつり上げる。  このようすだと秋吉先輩は僕からの返信を健気に待っていたんだろう。可哀想なことをしたと思いながらも拗ねてる先輩がかわいくてにやけそうになる。 「ごめんなさい。秋吉先輩もいっしょに食べましょー」  まだ何か言いたそうにしている秋吉先輩を宥めて、席についてもらう。僕の隣に座った先輩はテーブルに視線を落としたかと思うと眉間にしわをよせた。 「…………、浦ノ崎」 「なに?」 「いつまで篠岡の手を握ってるんだ。さっさと離せ」 「嫌」 「なんだって?」  不機嫌そうにしている秋吉先輩に対して浦ノ崎先輩は気後れすることなくきっぱりと言い放ち、それに秋吉先輩の眉間のしわが深くなる。 「秋吉の言うことなんか聞きたくないね。あんなに篠岡くんのことを邪険に扱っていたくせにちゃっかりつきあうとかホント信じられない。最悪。泥棒。このむっつり!」  なぜかぷんすか怒りだした浦ノ崎先輩に秋吉先輩はバツが悪そうに視線を逸らす。 「むっつりはおまえもだろ」 「ちがうね。僕は秋吉とちがってオープンだし、秋吉ほど質悪くないから」  浦ノ崎先輩が子供みたいにつんと顔を背ける。  僕は楽しそうなふたりから視線をはずし、食事を再開するためにさりげなく浦ノ崎先輩の手から逃れると、だいぶ冷めてしまった海鮮天丼にふたたび箸をつけた。  もぐもぐとご飯を咀嚼しながら言葉の応酬をしている先輩ふたりを眺めて、相変わらず仲が良いなあと思う。だけど僕の存在を忘れたみたいに浦ノ崎先輩と盛り上がってる秋吉先輩に少しだけモヤリとした。  あともう少ししたら浦ノ崎先輩に秋吉先輩を返してもらおう。それから、あとで秋吉先輩のおっぱいをちょこっとだけ舐めさせてもらおう。  このあとのことをあれこれ考えて僕はまた少しだけ幸せな気分になった。 end.  

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