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20:関係 *

 挿入した接合部から溶けてしまいそうな程熱い桔梗の中に、玲司は暴発してしまわないよう、細く息を吐く。  かつてはアルファ女性だけでなく、オメガに至っては男も女も関係をしてきた玲司だったが、桔梗と交わるようになってから、未知の愉悦に虜になったのは言うまでもない。  それだけ運命との交接は、比べ物にならない位、ドロドロに頭も体も混じり合ってしまいそうだった。 「桔梗君。辛くないですか?」  オメガは発情(ヒート)時になると、通常の何倍も快感を拾うらしい。まだ挿入の途中にも関わらず、桔梗の花芯の先端からぴゅくりぴゅくりと白濁の蜜を撒き散らす。  薄紅に色づいた肌は白に汚されているのに、見下ろす玲司の目には、貪り尽くしたいと思える程の扇情的な肢体がベッドに横たわっていた。  蕾のまま幾度と枯らしてきた可憐な花を開花させたのは玲司だ。  汗ばむうなじに牙を立て、番へと桔梗の体を作り替えた。  後悔は……ない、とは言い切れない。だからこそ、桔梗を何が何でも守り、愛していくと誓った筈なのに……  だから、婚姻届を出す少し前。やっとお互いの思いを通じ合わせ結ばれた時から、桔梗には少しでも苦痛を与えないように細心の注意を払って、快楽だけのみを注ぎ続けている。 「……は、い。おなかの奥……玲司さんの熱で……あったかい、です」  ふわり、と綿あめのような笑みを零し、桔梗は自分のお腹を無意識に撫でている。少しふっくらとしてきたとはいえ、まだ薄さがある桔梗のへその下辺りに、僅かに凹凸ができている。それが何かだなんて、玲司も理解していたし、桔梗も分かっていてそっと形を確かめるように撫でているのだろう。  無垢な笑みで、やってる事は凶悪すぎる。  玲司は内心で番が彼のナカにある己の楔の形に浮かぶ腹部を撫でさする姿に、喜びたいのか、怒りたいのか混乱していた。  かつて似たような台詞を吐いたオメガの男性と交わった事があった。  その時には「あざと過ぎて気持ちが悪い」と濡れた肉筒から自身を抜き去って、ホテルの一室に相手を置いて出て行った過去を思い出す。  桔梗も、似たような表情で似た台詞を吐いた。過去の自分なら、嫌悪に眉をしかめて行為すら中断したのだろうが、どうしてなのだろうか。桔梗の内側で怒張が今にも暴れたいと、一層膨らんだように感じた。  アルファの本能が、最奥まで突き立てて、オメガの子宮に精をぶちまけたい、と囁く。孕ませて、唯一の番を己の体液で染めてしまえ、と誘惑してくる。  しかし、本能のままに突き上げるのは駄目だ、と理性の玲司が諌めてくる。  もう、本能に支配されてはいけない。桔梗が無意識に誘惑してくるのは発情(ヒート)熱でうかされているのであって、普段の彼からはこんな風に淫靡な誘いはしないと知っている。  再度玲司は自分を落ち着かせようと、桔梗の胎内に楔を埋めたまま、深く息を吐いた。 「……玲司…さん?」  白い腕が伸びてきて、玲司の胸へと触れる。 「大丈夫、ですか?」 「ふ……。それは僕の台詞ですよ。桔梗君も大丈夫ですか? まだ体調が快復した訳ではないので、無理は駄目ですよ」 「はい。……ぁ、あぁんっ」  ほっとした微笑をこちらに向けてくる桔梗の腰に自らの腰を押し付け、ゆるりと円を描く。「あぁ……っ」とか細く啼く番の溶けそうに熱い粘膜を堪能しつつ、静かに腰を引き、桔梗の弱点である前立腺目掛けて雁首をソコに引っかけた。  粘膜の下にあるしこりは、アルファもベータもアルファの子供を身籠る事のできるオメガですら、男性体である以上、前立腺は存在する。  オメガはベータやオメガの女性と性交でき、更に子供を作る事ができる。だが、その出生率は殆どゼロに等しい数字で、大体が他から養子を取ったり、オメガ同士の夫婦ならば互いの番との間に生まれた子供を引き取ったりするパターンもあった。  それでも、アルファを求める強制力に逆らえないのか、最終的には離散したり、互いの不倫を許容するといった、歪な関係になる事が殆どのようだ。 「きもち……いぃ……っ、れ、じさ……もっと……して」  同性同士だからこそ分かる快感の実を、喉を反らして欲しがる桔梗に、玲司は身をかがめてむき出しの喉元に軽く歯を立て、腰を浅く一点へと擦りつける。  前立腺を責める度に、桔梗の先端からはぴゅくぴゅくと白濁を零し、薄紅の肌を白く汚していく。密着するように互いの腹を合わせて動けば、桔梗の白濁がにちゃにちゃと捏ねる水音が生まれ、互いの欲情を高めていく。  時折、番の証であるうなじの噛み跡に舌を這わせれば、その度に桔梗は丘の魚のごとくビクビクと反応を返し、玲司の熱を抱く蜜筒はぎゅっと縛り付けてくる。 『あなたが発情(ヒート)で誘惑して、無理やり番契約したんじゃないの!』  ふと、愚かなベータの女が桔梗を貶めた時の言葉がよぎる。  あの豪雨の日。桔梗の発情フェロモンにあてられ、玲司も発情(ラット)となった。そして承諾もなく桔梗の純潔を奪い、うなじに噛み付いた。  しかし、その事実を知っているのは、寒川の家族と、桔梗の兄である朔音、それから藤田夫夫の筈だ。それなのに、何故彼女が知っていたのだろうか。 (……まあいい。総一朗兄さんがその辺りは尋問してくれるだろう。あの人は先を見通して物事を考える人だし)  かつて兄と呼びながらも、一線を引き、玲司が留学してからというもの、殆ど交流さえなかった総一朗を、ここまで信頼を置いていたのだと苦笑し、今はただ、蕩けるように甘く魅惑的な番に集中しようと、玲司は深く腰を突き出した。  コンコン、と微かなノックの音に、眠っていた玲司の意識がふっと浮上する。目を開くとカーテンの隙間から陽の光が射し込み、随分深く眠っていたのだと気づいた。  何度も、何回も、お互いが足りないと言っては、繰り返し貪り続け、体力が尽きた桔梗が気絶したのは、空がうっすらと白みかけた頃だったと記憶している。 「……んぅ」  胸の中でゴソリと身じろぐ気配を感じ、玲司は小さく舌打ちをする。桔梗が玲司の腕の中ですやすやと眠っていたのだが、ノックの音で今にも起きそうだ。  苛立つ玲司をからかうように再びノックの音が微かに聞こえる。  今日、ここには誰も立ち入らないよう、ホテルには再三言っていた。にも拘らず、空気を読まずにまたも聞こえた音に。 「……誰だ、一体」  桔梗には見せた事のない、不機嫌な口調で零し、番が起きないようそっと体を起こした。  昨夜──というより今朝、汗と互いの白濁と桔梗の蜜で汚れ、皺だらけになったシーツを取り替え、桔梗を風呂に入れたおかげで、不快感は全くない。  ぐっすり眠る桔梗の表情は落ち着いたもので、やはり直接中出しした方が発情も落ち着くのだと、ほっとしつつ、次にナイトテーブルにある開封済みの薬のシートと、飲みかけのペットボトルに視線を移し、小さな迷いの波紋が玲司の胸の内で広がった。  本当に、このまま避妊して良かったのか、と。  だが、もう薬は桔梗の中で溶けて吸収されている頃だ。  それに玲司にも覚悟ができていない。  迷いで揺れる気持ちを頭をゆるく振って追い払い、床に散乱する服の中から自分のジーンズとシャツを羽織ると、まだもノックが続く扉へと近づいた。 「誰……」 「僕、昨日言ったよね、玲司兄さん。不安定な発情でのセックスは推奨しないって」  扉を開いた途端飛び込んできたのは、機嫌の悪い玲司よりも更に冷ややかな声をした義弟の凛だった。 「うわ、何なのこの高濃度なフェロモン。一体、何時頃までシてたのかな?」  立ち尽くす玲司を押しのけ部屋に入った凛は、すぐさま窓へと近づき全開にして回る。空調の効いた暖かな部屋が、あっという間に外気と変わらなくなり、シャツ一枚の玲司はブルリと体を震わす。 「あのね、玲司兄さん。本来のオメガの発情(ヒート)なら、僕もここまで強く言うつもりもないし、規制をかけたりもしないよ。でも、別のアルファにレイプされそうになって、更に予想外の発情を起こした番に無体を強いるな、って言ったつもりなんだけど」 「……ごめん、凛」  ここは素直に謝ったほうが得策だ、と玲司は反省を含んだ声で謝罪すると、ようやく凛も落ち着いたのか、それはそれは深い溜息をついていた。 「僕に謝られても……。ところで桔梗さんは寝てるんだよね」 「一応、発情(ヒート)は落ち着いてますけど」 「そう。それは良かった。で、避妊薬は飲ませたの?」  玲司が「ええ」と呟くような小声で返答する。 「まあ、それなら僕が改めて診察しなくてもいいかな。一応、PTSDが出る可能性も考えて、ちょっとでも変化があるようなら、うちの病院のオメガ科に連れてきて」 「それは勿論。藤田医師はメンタルヘルスは不得意のようですから」 「あの人は基本内科専門だからね。一応、オメガ科の方でも指定医の資格はあるみたいだけど」  凛は一瞬だけ桔梗が居るだろう寝室へと目線を向けてから、ひそめた声で玲司に問いかける。 「……ところで、桔梗さんは知ってるの? 僕と玲司兄さんの関係」

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