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玉響に恋の炎は燃えあがる
国民的アイドルグループが紅白歌合戦のステージで歌い踊っている最中に、こんな速報が流れた。
北陸地方で列車が脱線して、多数の死傷者が出ているもよう──。
大みそかに気の毒な話だ。篠田航平 はテレビのボリュームを下げがてら、水割りのグラスにウイスキーを注 ぎ足した。その拍子に内臓がねじれるような痛みが、鳩尾に走った。
持病の肋間神経痛だろう。あっさり片づけて水割りをすする。
それにしても最近のヒット曲はさっぱりわからない。化石人間、と娘に皮肉られるのも当然で、青春ソングが今や音楽の教科書に載っている世代だ。
と、門扉側のチャイムが鳴った。篠田は眉をひそめた。
除夜の鐘がこだましだした今時分に、どこのどいつが、いったい何の用だ?
いったん居留守を決め込んだものの、無性に胸が騒いでインターフォンの通話ボタンを押す。モニターが明るみ、ぎょっとして目を凝らした。
やつれた感のある顔に少年のころの面影を残し、見間違えようがない。
あまりにも思いがけない人物が、門灯が作り出す輪の中にたたずんでいる。
「先生……ですね。おれを憶えてますか?」
狐につままれたような思いで二度目のチャイムに応じると、スピーカー越しにそう囁きかけてきた。篠田は深呼吸をしてから答えた。
「暁生 くん……だな」
暁生──田宮暁生は、篠田の妻である志保の弟だ。二十年前に家出したっきり、風の便りさえ聞こえてこなかった彼が、なぜ突然?
遠隔操作で門を解錠し終えると、居ても立ってもいられない。玄関先まで迎えに出た。
さくさくと雪を踏んで、ほっそりした人影が近づいてくるにつれて鼓動が速まっていく。
篠田は作り笑いを浮かべると、銀世界と化した往来へと視線をさまよわせた。
暁生は知人にでも車で送ってもらったのだろうか、それともタクシーで乗りつけたのか。いずれにしても、それらしき轍 が見当たらないのが不思議だ。
では電車を利用して、最寄りの駅からは歩きか。
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