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うたかたの、蜉蝣の
◇◆◇
横倒しになった車両が、黒々と雪をうがつ現場は、消防車などでごった返していた。
負傷者があわただしく病院に搬送される一方で、その場で死亡が確認された遺体は、ひとまずブルーシート上に横たえられていた。
臨場した警察官が、遺体のかたわらに膝をついた。
三十代後半といった年恰好の、綺麗な顔立ちの男だ。そう思い、手を合わせると、身分証の類いを求めてジーンズの尻ポケットをまさぐった。
パスケースを兼ねた財布を見つけ出した。
投光器に翳してみたそれにはスナップ写真が挟み込まれていて、警察官は矯 めつ眇 めつして首をかしげた。
何世代も前のデジタルカメラで撮影したとおぼしく画質が粗い。被写体は制服姿の少年と、知的な容貌の青年で、その彼らが一瞬、二十歳ほど年を取ったように見えたのは、恐らく画質の問題だ。
どこかの豪邸をバックに、仲睦まじげにカメラに収まったふたりが……。
いちど破り捨てたものを丁寧に接 ぎ合わせた形跡があるあたり、宝物の一葉だったはず。
職務を逸脱した行為だが、どうしてもそうしてあげたくなった。
警察官は写真を抜き取ると、ホトケの手にそっと握らせた。
──了──
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