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第1話 1月26日(日) 驚き雪の日誕生日
俺の誕生日は1月26日。毎年この日から2月の半ばにかけて、山に囲まれたこの地域ではよく雪が降る。とはいえ降っては消えるような雪なので、積もることはない。
また、バスケ部の引退した3年の先輩たちが大学のセンター試験を終え、息抜きに顔を出すのもこの時期だ。
さて、今日は俺の17歳の誕生日である。
「俊希 誕生日おめでとう!」
「うわ、なんだよ知ってたのかよ!」
「鳶坂 先輩、おめでとうございます!」
「あんがとー!」
「トビ、おめでとう!」
「岡田先輩、あざっす!」
こんな具合に同級生や後輩、顔を出してくれた先輩までがお祝いの声をかけてくれた。
前キャプテンの岡田先輩からは新キャプテン就任の祝いもかねて、ノイキのバスケットソックスまでプレゼントしてもらうありがたさだ。
だが俺は、現状を心から楽しめないでいた。
『圧がすげえんだよ、圧が』
俺の斜め後ろからバスケ部のエースの犬谷悠飛 が、みんなに祝われる俺をジィッと見ているのだから。
時間をさかのぼること数時間前。まだ部活がはじまるほんの少し前のことだ。
「好きだ」
犬谷が俺を見下ろしながらそう言った。俺の手首を大きな手でがっちり掴み、無表情なのにどこか熱のこもった目で見つめながらである。
犬谷という男は無口で無愛想な、例えるならば未来からやってきた某マッチョな人型ロボット、ターミなんたらみたいな奴だ。
そんな犬谷に俺は腕を掴まれ、たったそれだけの簡潔な告白された。
仲がいいわけはもちろんない。どちらかと言うと苦手、嫌いに分類される。そんな犬谷がなぜ俺にそんなことを言うのか。理解不能だ。
「……はい?」
だから思わずそう聞き返したはずなのに、俺の疑問形はみごとなまでに肯定として捉えられてしまったのだ。
掴まれている手首の締め付けがさっきよりも強くなる。
「うれしい」
そう言った犬谷の表情筋がじわじわとほどけていく。
どきりとした。犬谷は普段どんなにスリリングなシュートやスリーポイントをきめても笑わない。そんな犬谷が笑顔を俺に見せて喜んでいる。
ヤバいと思ったものの後の祭りで、そんな顔を見てしまっては『あ、それ間違えです』なんて言葉が言い出せない。
俺の手首を掴んでいる犬谷の手のひらがじんわりと汗ばんでいた。
そんな告白劇があったことなんか知るわけもない後輩たちが部室へやってきたことで、俺の腕は解放された。
そこからいつも通りの練習がはじまったのだが今日は俺の誕生日ということもあり、まさかの練習終盤、サプライズで仲間たちに祝われている。
そしてその光景をゴミでも見るかのような眼差しで犬谷は見ているのだ。
「おいユーヒィ~! お前もトビのことちゃんと祝ってやれよ!」
岡田先輩が犬谷の肩を抱いて言った。
このアホみたいに無愛想な犬谷にどんなにシカトされても、岡田先輩だけはフランクに接していた唯一の先輩だろう。
「……おめでと」
さっきまでの底冷えするような眼差しとは打って変わって、犬谷は数時間前と同じ無表情なのにどこか熱のこもった目で俺を見下ろしながらそう言った。
「あ、りがとぉ」
「ウンウン、ちゃんと仲良くしろよ。お前らが今年を引っ張っていくんだからな!」
そのまま練習を終えた俺たちは、体育館から部室へ戻り着替え帰宅する。
後輩たちの帰宅を見届けると俺は長机に向かい、先輩から引き継がれたノートを広げた。
俺の所属するバスケ部は、キャプテンが日曜日に1週間分の練習メニューを組むことになっている。
県大会3位止まり。今年こそインターハイに出たい。このバスケ部は5年前に一度だけインターハイに出場している。その時の年には犬谷のようなスコアラー選手がいたらしい。
チームプレイは確かに大事だ。でもそれだけじゃ勝てないと、最近強く思うようになった。
犬谷をもっと自由にコートで動いてもらえば、勝ち目はあるかもしれない。
「お前、誕生日だったのか?」
「うわー!!」
もう誰もいない。そう思っていた部室で話しかけられ、俺のからだがビクリと跳ね上がる。
「犬谷っ!? 帰ったんじゃなかったンかよ」
「戻ってきた。質問に答えろ」
「あ、ああ。誕生日は、今日だけど」
「知らなかった……」
そう言って眉間にしわを寄せながら犬谷は部室を出ていった。
ドクドクとまだ心臓が鳴っている。
『マジであいつ、なんなんだよ! くそっ!』
時計を見るともうすぐ21時になる。今度こそ誰もいない部室で、俺はさっさとメニューを組みノートに記入していく。
窓から見た外は、まだ雪がふわふわと舞っていた。
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