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Love Memories:最後の夏9
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部室に着いてからというもの――。
「あの……、ドレスを汚しちゃいけないから脱ぐね」
付けていた長い手袋をいそいそ外して、ドレスを脱ごうとした手をさっと掴まれる。
「なんだよ、吉川」
「俺が脱がす。ノリはそのままでいてくれ」
「カツラくらい外していいでしょ? 重いんだよ」
「ダメだ。そのままでって言ってるだろ」
う~~~っ、吉川ってばワガママばっかり。
「僕を脱がせる前に、自分のを脱ぎなよ。着るトコ見てたけど、大変そうだったよ」
故に、脱ぐのも苦労すると思った。
「ぁあ!? こんなの一瞬で脱げるって。ほら……って、あれ?」
長いマントが邪魔して、思いっきり引っかかったらしい。まったく、手がかかるんだから。
「こっち向いてよ。僕がしてあげる」
「何だかわりぃ……。今日はカッコ悪いトコばっか見せちまって」
その言葉に、ふるふると首を横に振った。
「吉川が僕のために一生懸命戦ってくれたこと、あれのどこがカッコ悪いのか理解できないよ。サッカーの試合よりも、カッコいいって思っちゃった」
引っかかっていたマントを上手いこと外し、タキシードのボタンに手をかける。
「ノリからこうやって脱がされるのも、結構ドキドキするもんだな」
「だって吉川ってば、ばばばっていつも自分で脱いじゃうから」
「だけどのんびりしすぎだ、待っていられない」
まだ途中だというのに、キスをしてきた吉川。堪らなくなった僕は、そのまま両手を首にかけて引き寄せた。
「んっ……吉川、ぅっ」
「すげぇ嬉しかった。俺の代わりに竹刀を持ってくれて。みんなの前で好きだって言ってくれて」
(あ――そういえば、大胆なことを舞台から言っちゃってたな)
目をしばたかせる僕を、ゆっくり床に押し倒してくれる。上に跨っている煌の顔に、窓から差し込む夕日が照らされてキラキラと煌いていた。
「ノリが守ってくれたように、俺も守ってやるから……。これからもずっと――」
掠れた言葉が、胸の中にじわりと染みこんでいく。
「煌、僕もずっと君のことを想っていく。守っていくから、お願――」
傍にいてと言うセリフを奪って、唇を重ねた吉川。それが意図されたことであるのが後日、明るみになるのだった。
【的のむこう側6 アオケバトウトキ】にづづく
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