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Love Memories:最後の夏8
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控え室に使っていた体育館傍にある家庭科室に入り、はーっと大きなため息をついた。
吉川の足が思いのほか速い上にドレスを着ていたせいで、引っ張られながら何度も転びかけてしまった。
「大丈夫か? ノリ」
転びかけた体を吉川が抱えるようにして、控え室に戻ったのだった。扉を閉めて目を合わせた瞬間、体育館から大きな拍手が聞こえてきた。
「終わったみたいだね……」
「ああ。小林が何とかしてくれたみたいだな」
僕たちのハッピーエンドは勝利した吉川に僕が抱きついて、喜びのキスをし(勿論、観客から見えないようにだよ)ふたりの仲を見せつける様にその場で踊ってから、手を取り合って舞台を去る予定だった。
「カーテンコール、行ったほうがいいよね?」
主役なんだしと言いながら歩き出したら、左腕をぎゅっと掴まれ動きを止められる。
「吉川?」
「……ノリ、今のお前を抱きたい」
「へっ!?」
いきなりのセリフに、顔全部が真っ赤になるのが分かった。
「なっ何で、そんなこと――」
今日一番にドキドキしてる――真剣な眼差しをした吉川が冗談を言ったんじゃないって分かったから、尚更。
「小林に負けて、情けない俺を救ってくれたノリになんちゅーか……。愛情を返してやりたい、みたいな感じというか」
「いいけど……。でもすぐに皆が戻ってきちゃうよ」
掴んでいる吉川の手に自分の手を添えて、そっと撫でてあげる。
「みんなが来ない場所、ひとつだけあるだろ?」
「あ――、あそこか」
「こっそりと朝練してるノリなら鍵を持っているだろうなぁと、予測しているんだけど、どうだ?」
確信犯の恋人を持つと変なところに、気を回さなくていいのが楽かもしれない。
「さすがだね、持ってきてるよ。ちょっと待ってて」
やんわりと吉川の手を外し、自分のカバンが置いてあるところまで急いで行き、中から部室の鍵を取り出した。
「ほら、みんなが戻ってくる前にずらかるぞ。ノリーナ姫、お手をどうぞ」
「お気遣い感謝いたします、コウ王子。行きましょうか」
差し出してくれた手に迷うことなく自分の手を重ねて、弓道部の部室へと消えたのだった。
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