14 / 31

01

 それは昨日の出来事だ。 「しょんべん、しょんべん」  なーんて、少々お下品な台詞を吐きながら、いそいそと便所に向かっていた俺。その時、 「……――んっ。や、やめて下さいっっ!」 (……ん? なんや??)  便所の個室(つまり大きい用を足す方ね)から、何だか切羽詰まった声がした。    ――嫌な予感。 「――あっ。そ、そんなっ、逢坂(おうさか)課長っっ !!」 (……やっぱり)  嫌な予感ほどよく当たるもので。しばらく大人しくしていたと思ったのに、どうやら例のビョーキが再発したらしい。便所の中から若い男の切ない声と、ナニをしゃぶる(なまめ)かしい音が聞こえて来た。  逢坂課長は盛りが付いたら止まらない。どこまでも暴走して、相手が男であろうが女であろうが、その場で餌食となってしまう。 (……ガンッ !!)  俺はそのドアを思い切り蹴飛(けと)ばした。そして、静寂が辺りを支配し、ゆっくりと開けられたドア。 (――ドンッ!)  すると、中から下半身をまる出しにした同僚の砂川(さがわ)が飛び出して来た。  砂川は根っからの真面目人間で、どう考えてもノンケだろう男だ。瞳に涙をいっぱい溜め、俺の方を見ずに慌ててズボンを引き上げながら便所から出て行く。 「……長谷部君」 「課長――、また病気が出ましたね?」  叱られた子供のように(うつむ)いてて、またもや瞳に涙を浮かべている逢坂課長。 「泣いたってダメです!」  俺の台詞に身体(からだ)をびくりと跳ねさせると、恨めしげに俺を睨んだ。 「……今夜、僕の部屋に来てください。いいですね?」  俺はそう言い放ち、それから徹底的に課長を無視する。何か言いたげな瞳の課長が気になったが、とにかく就業時間を迎えた。

ともだちにシェアしよう!